深層ルポ 川内原発「10月再稼働」を強行した九州電力のカネと支配
2014.07.26
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「何とかしますよ」
安倍首相は九州経済界のドン・麻生泰九経連会長に約束した
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 まるで再稼働派の「勝利の宴」だ。
 7月16日、原子力規制委員会が川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)に、「安全基準クリア」のお墨付きを与えたわずか2日後、九州電力本店から徒歩5分ほどの超高級料亭「嵯峨野」に九州財界の大物が集合、福岡を訪れていた安倍晋三首相を迎え、ミシュラン三ツ星の高級懐石に舌鼓を打った。
「川内原発のことはなんとかする。ハッキリさせる」
 安倍首相は上機嫌でそう放言したという。同席した財界人のなかには、九州電力会長の貫(ぬき)正義氏、そして九州経済連合会会長の麻生泰(ゆたか)氏の顔があった。貫会長は九州大学経済学部を卒業し、広報部長などを経て’12年に会長就任。麻生氏は100年以上の歴史を誇る麻生グループの現在のトップであり、麻生太郎副総理の実弟でもある。
「九州は九電が牛耳る『九電王国』です。麻生氏は、代々九電会長が独占してきた九経連の会長職を引き継いでおり、九電グループの一員といえます。今回、原発再稼働を後押しする九州財界の面々が顔をそろえた。麻生副総理という安倍政権内の重要閣僚との太いパイプもある。麻生副総理は再稼働に積極的で、’12年の佐賀での講演会では『さっさと(再稼働を)やります、と言ったら企業はやってくる。東北より電力が安定した佐賀か川内のほうに行く。企業誘致の基本だ』と語っています」(地方紙経済部記者)
 川内原発は今後、安全性について公開で意見を募集し、立地する自治体の同意を得るというステップを控えているが、九電は自信満々だ。川内原発、玄海原発(佐賀県玄海町)の周辺には、寄付や事業の発注という形で、たっぷりと「九電マネー」が行きわたっており、地域の住民は、反対したくてもできない状態にあるからだ。
20億円をポンと寄付
 原発周辺地域には、九電マネーで作られた多数のハコモノ建築が並ぶ。
 薩摩川内市は川内原発3号機増設にあたって’03年に15億円の寄付を、’08年に1億3000万円の寄付を受け取った。この九電マネーは、文学館や歴史資料館などの整備に消えた。
 玄海町の隣、唐津市の中心部にある「唐津市民交流プラザ」。白を基調にした清潔なホールには85インチの巨大ディスプレイが配置され、ほかにも4つの会議室と多目的ホールが整備されている。九電は’10年から年1億円ずつを分割で計5億円寄付する予定だったが、原発事故後、’11年は5000万円に、’12年はゼロとなり、現在は中断している。
 唐津市の北部、唐津城のふもとにある新設校、早稲田佐賀中・高。校舎内には生徒用の豪華なラウンジがあり、敷地内にはテニスコートが4面も整備されている。早稲田大学創設者大隈重信生誕の地に’10年に創立された。この学校にも20億円もの九電マネーが流れ込んでいる。
 鳥栖市にある九州国際重粒子線がん治療センター、通称「サガハイマット」は、日本で4番目、九州で初の重粒子治療のための巨大施設だ。ここには約40億円の九電マネーが投入される予定だったが、原発事故後、一時棚上げになっている。
「再稼働賛成だ。九電からの寄付がなくなれば地域振興ができなくなる」(薩摩川内市在住の30代、不動産業の男性)
 九電が寄付をするのは、自治体だけではない。
「鹿児島の漁業組合は、(川内原発)3号機(現在着工待ち)増設を決める過程で合計約40億円を受け取っているといいます。原発の温排水が漁業圏に影響するからという理由です」(薩摩川内市議)
 原発立地自治体には、原発の作業員が滞在することによる経済効果もある。
「原発がなくなると作業員がいなくなって宿泊業や飲食業は儲からなくなる。いままでは、観光客が来ても『作業員で満杯だから』と追い返していたくらいですから、いまさら観光客向けの業態にシフトできないんです」(前出・市議)
 川内商工会議所は「一回の原発の定期検査で地元に6億円の経済効果がある」としている。
自治体がすがる九電マネー
 九電は九州内の企業への影響力も絶大だ。前出の記者が言う。
「九州全域で九電の取引企業は約1400社あり、九電商友会という団体を作っています。九電は基本的に発注側ですのでそれぞれの地域で地元企業に対して強い影響力を持っています」
 九電は、JR九州、福岡銀行など大企業7社で作る「七社会」といった経済団体の幹事を務めてきた。とくに九経連会長の地位は、代々九電会長が独占しており、そのことによる政治への影響力も大きい。記者が続ける。
「ハウステンボス(長崎県佐世保市)が経営難に陥って同社の親会社が引受先を探していた際には、佐世保市長の朝長(ともなが)則男氏が真っ先に当時の九電会長、松尾新吾氏(現相談役)に相談を持ちかけました。松尾前会長はすぐさま引受先としてH.I.Sを連れてきた。『困ったら九電に頼れ』なんです」
 カネばかりではない。九電は社員を地元のイベントや行事に参加させることで、反対運動を防いでもいる。玄海原発近くの値賀(ちか)神社の例祭には、毎年、発電所の幹部が参加し、カラオケにも加わる。ほかにも、清掃ボランティアなどに社員を参加させたり、合唱コンクールなどを主催したりする。
 カネで原発への同意を買いつけ、企業を束ねる組織力で政治を動かそうとする九電。この構造のなかで住民が反対を表明するのは難しい。
「匿名で再稼働に賛成か反対かを表明できる『シール投票』を行っています。九電に土地を売っていたり、地元で企業を作って九電と取引をしていたりする地域は賛成が多くなりますが、普段反対の声が挙がらない商店街で調査をすると、過半数が反対に投票したんです。ある建築関係の方は『うちは川内原発から仕事をもらっているんですよ。だけど本当は再稼働なんかしない方がいいと思う』とおっしゃっていた」(かごしま反原発連合・岩井哲(さとし)氏)
「川内の商工会の副会長さんは、福島にまだ避難生活を送っている知り合いがいて、『原発事故は大変なんだなあ』と言っていましたが、それでも彼は再稼働を希望する陳述書を市に出していました」(前出・市議)
 同じ構図は福島第一原発で大事故を起こした東京電力でも見られた。東電も、かつては政治家や地元にカネをバラまき、反対意見を封殺した。
「地元自治体に20年以上にわたって年平均で約20億円をバラまき、130億円をかけて、サッカー日本代表の練習施設であるJヴィレッジを整備し、地元に寄付した」(前出・記者)
 福島は巨大津波に襲われたが、九州の原発周辺には、阿蘇山、桜島という二つの火山がある。数万年に一度の大噴火が起きたら、今度こそ、「想定外」では済まされない。
 安倍首相は、地元の「声なき声」にこそ耳を傾けるべきではないか。
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