あなたの知らない「BL本」(ボーイズラブ)の世界
2016.04.05
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キャッチのセンスが強烈です!
「バナナはオケツに入りますか?」――そう、オヤツではなくオケツなのだ。いま、一部の女子をトリコにしているBL作品はこんなにも奥が深かった! その帯やキャッチに込められたアツすぎる言葉の数々をどうぞご堪能あれ!!
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『ナイトは妖しいのがお好き♡』南原兼著(角川ルビー文庫/角川書店)天才学者・三千院と高校生・九条が旅先の温泉で不思議な岩風呂に迷い込み……?
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『やらしい同棲生活』あきばじろぉ著(ジュネット文庫/ジュネット)同棲中の♂×♂同性カップル総勢12組の、濃厚すぎるLOVEとHをテーマにした短編集。
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『理不尽な恋人 理不尽な求愛者2』火崎勇著(キャラ文庫/徳間書店)殺人事件の捜査に奔走するあまり、刑事・清白と大学教授・一色の間に亀裂が!?
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『欲望 ラブ・アフェア』藍生有著(リリ文庫/大誠社)文具メーカーに勤務する会社員・亘をめぐって、健気系&傲慢系、2人の後輩が激突。亘の運命は!
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『イケメンパパはダディがお好き』新也美樹著(GUSH COMICS/海王社)久しぶりに再会した、バツ1の後輩君とバツ5(!)の先輩が繰り広げるラブ・ウォー。
「そう…。そのまま飲みこんで。僕のエクスカリバー…」
 ズラリと並んだ見たこともない言葉たち――。
 一部の女子から熱狂的に支持されるBL、ボーイズラブ業界では、なじみのない人たちにとっては想像のはるか上を行くフレーズが、これほどまでに乱立しているのだ。ご覧になれば一目瞭然、書名より帯の文言のほうが目立つ……というかキョーレツなものばかりなのである。BLの世界はマンガと小説、大きく2つに分かれるが、双方とも、目を見張る帯であふれているのだ。
 自らのウェブサイト(http://coffeewriter.com/)で気になったBLの帯を紹介しているカフェオレライター・マルコ氏が話す。
「BLの帯に興味を惹かれて自分のサイトで紹介し始めたのが’05年11月。もう10年もこんなことをやってるんですね……。ボクが最初にトリコになったのは、『ナイトは妖しいのがお好き♡』の帯、『そう…。そのまま飲みこんで。僕のエクスカリバー…』。これは胸にズドンと来るものがありました。原点にして頂点と呼べるBL帯です。『飲みこんでおれのポセイドン』というこの帯へのオマージュのようなバナー広告まであるほどなんです。エクスカリバーという剣だけに、BL業界を切り拓いていった感がありますね(笑)」
 かように、なかなか物騒な言葉が飛び交っているBL業界。かつて同人誌の世界から「やおい」というジャンルが生まれ、十数年前から「ボーイズラブ」という呼称が徐々に浸透。いまでは多くの女子たちのハートをつかんでいる。そのジャンルも時代とともに細分化されているという。
「たとえば、擬人化というジャンルでも、かつてはモノや動物が人として生きているというパターンでした。猫耳や尻尾がついているけど人間という設定ですね。しかし、いまはケモノというジャンルがあるんです。そのまま動物なんですよ。トラと人間が同棲するマンガがあるんですが、トラはスーツを着て普通にしゃべってるんです。一方でこれまでの擬人化モノもあるので、より細かく嗜好が分かれているといえますね」(マルコ氏)
 ……(絶句)。ここまで来ると理解しようとする努力は必要ないのかもしれない。ただ、目の前にあるBLの設定を愉しめばいいのだ、きっと。
 ちなみに、BLに読者層は存在しないのだという。下は女子中高生から、上は’95年に発売された竹宮惠子の名作『風と木の詩』(白泉社)以来という熱心なオールドファンまでいるという。親、子、孫の3世代で愉しむのがBLなのだ。
 では、伝説の「エクスカリバー」から始まったBL帯戦争。最近の名作をマルコ氏のガイドで見ていこう。
「「先輩、昼休みなんで乳首吸わせてください」」
 これは、カギカッコが2つあるのがポイントです。表紙のカットを見ればわかるのですが、後輩2人が先輩に同時に同じことを言っているんです。ボクはこの「昼休み」と「乳首を吸う」という関連性がまったくないふたつを結びつけるセンスに脱帽しました。「ビコーズでつないでるけど、なぜ?」と思いますよね。でも、そこに理由はいらないんです。
 帯には2つのパターンがあって、文中のセリフをそのまま抜き出すものと、もうひとつは文中にはない言葉を編集者が考えるものがあるのですが、これは前者ですね。
「たちあがれマグナム」
 この帯を見たときは「キターッ」と心の中でガッツポーズしましたね。これほど豊かな意味を持つ9文字は日本語にはありません。しかも、ガンダムのパロディになっているという素晴らしさ。これはもう俳句や短歌と同列に並べたいレベルのクオリティです。
「何度でも処女になる」
 これはファンタジー系です。実は小川洋子さんの『博士の愛した数式』と似た設定で、ときおり記憶を失う主人公の話なんです。でも、冷静に考えると「ならないよ」っていう。すごくせつないトーンで書かれていますが、いや、なるはずないでしょ、となりますよね。
「アメリカで調査してきたぞ――君と苦痛なく繋がれる方法を」
 これも冷静に読むと確実におかしい。わざわざアメリカに行くほどのことでもありませんし、そのへんの薬局で聞けばいいんじゃない? というね。倒置法にしてインパクトを持たせているところもポイントですね。
「先輩、なかなかの尻をお持ちですね♡」
 これはBLの標準的な帯と言えます。王道です。名家の子息と庭師の身分差ラブという設定もよくあるパターンです。
「大好きだから、媚薬もっちゃえっ★」
 これはBL以前に人としてどうかと思ってしまいますよね。でも、書体やデザインがポップなので成立している。これがもし、「オマエが好きだから媚薬をもってやる!」というSな言い方でシリアスなトーンになると、読者には届かなかったかもしれません。
「童貞男子、天狗で処女喪失!?」
「肉汁たっぷりジューシィーなこの恋は、真面目な男をバカにする。」
 この2冊は最近の傾向です。言葉と一緒にイラストがついたパターンですね。最近は過激になるというよりはむしろこのようにバリエーションが増えている傾向が続いていますね。

「ボクがBLの帯を取り上げ始めたとき、BL好きの人からは『そこに驚くんだ?』という新鮮さがあったそうなんです。BL読者にとっては 『え? そこ?』みたいな。BLの世界では男性が妊娠することだってよくありますから、こうした帯に驚くことはないんですよ。ひとつ誤解のないように言っておきますと、今回取り上げた帯はかなり個性的なもの。大半のものはここまで刺激は強くありません」(マルコ氏)
 最近では、枯れ専やオヤジ系が充実してきているというBL業界。すでに「ボーイズラブ」の範疇を軽~く超えているが、そこは何も問題ない。読者が愉しめればそれでいい! ダイナマイト読者も一度、勇気を出して書店のBL棚を探索してみてはいかが?
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『Dr.チェリー』青山あると著(GUSH mania COMICS/海王社)インポで悩む童貞医師を、S系理学療法士がアノ手コノ手を使って治療してみると……?
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『乙女ビッチくんの恋愛攻略!』サトニシ著(ビーボーイコミックス/リブレ出版)片思い中の友達に惚れ薬入りのケーキを食べさせたら、大変なことに!
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『忘れるのはもったいない』七織ニナコ著(GUSH COMICS/海王社)尻を触り合ううち、だんだん後輩の手つきがHに! 尻から始まるラブストーリー。
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『黒獅子の寵愛』つばき深玲著(角川ルビー文庫/KADOKAWA)とある国の外相が、ときおり記憶を失ってしまう踊り子の少年と恋に落ちて――。
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『村人Aは魔王の嫁です。』天野かづき著(角川ルビー文庫/KADOKAWA)平凡な暮らしを望む村人Aだったが、洞窟の封印を解いたため魔王の嫁に!?
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『天狗のしわざ』カノンチヒロ著(キャラコミックス/徳間書店)天狗のお面を使ってひとりエッチに励むミドリの前に、突然超イケメンの天狗が降臨!
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『BANBA BURGER』村上キャンプ著(POE BACKS Babyコミックス/ふゅーじょんぷろだくと)シェフとオーナーが織りなす笑い&胸キュン物語。

帯600本超え編集者による「帯論」
 松文館の編集者・沖崎良成氏は、これまで600冊以上のBL本に帯とアオリをつけてきたという、BL帯界のキング・オブ・プロフェッショナルだ。
「ショタ(少年モノ)アンソロジーを頻繁に出していたころは、頭の中は常にショタのことでいっぱい。通勤電車の中で無意識に"ショタか……"とつぶやいていたこともあります」
 沖崎氏がここまで追い込まれながら作ったショタアンソロジー『少年愛の美学』が、BLファンを揺るがす名作アオリを生む。
「『バナナはオケツに入りますか?』ですね。ネットではずいぶん話題になったようです。実はこのネタは裏表紙までつながっていて、『はい、2本までです!』というオチがついています(笑)。
 このアオリを思いついたのは、寝る直前でした。遠足とアオカンの特集だったので、そこから関連する言葉を探していって、ふと、『バナナはおやつに入るんですか?』という遠足の際に、子どもが先生に聞く定番フレーズが浮かんだんです」
 楽しい遠足の1シーンを一瞬にしてイカガワシイものに塗り替える言葉のミラクルマジック。読んだ人の頭の中に間違いなく残る衝撃的なこのアオリには、沖崎氏が挙げる帯やキャッチに大事な3つのポイントがしっかりと含まれている。それは、(1)インパクト、(2)シンプル、(3)クスリとした笑い、の3点だ。
「書店で読者に足を止めてもらうために、(1)は必須。そして(2)。シンプルであったほうがより(1)が引き立つ。さらに(3)。笑える要素があれば、友人との会話やSNSで話題にしてもらえますから。たとえば、『精通』は英語でファーストエグザミネーションと言いますが、わかりにくいし面白くない。それなら、『ファーストドッピュン』でいこう! というノリですね。ボクが先行してキャッチを思いつき、それに沿った表紙をマンガ家さんに描いてもらうパターンもよくあります。
 ウチはいまほぼ電子書籍がメインなんですが、帯ナシのものと帯アリのもの2つを配信会社さんにお渡しするんです。結果、ほとんどの場合、帯アリのほうが採用されますね。やっぱり大事なのはインパクトなんです」
 そんな沖崎氏が自分でもお気に入りという帯が、『ANIMAL PLAY』と『BABY BITCH!』の2冊の帯。同時期に発売した2人の作家のマンガに、「襲え。」「犯せ。」と連動した帯をつけた。帯いっぱいに描かれた過激な2文字は書店でも大きく目を引き、話題が沸騰した。
「とはいえ、性器を示す言葉をそのまま使ったりするのは、下品になりすぎてしまう。男性も女性も『何だ、これは?』と笑えるものがいいですよね。そして、帯は編集や作家が面白がりながら作らなければ。読者ウケばかり狙っていると、いずれコンテンツが干上がるでしょう。その点には、今後も気をつけたいと思って作っています」
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上は『ANIMAL PLAY』BENNY’S著。下は『BABY BITCH!』井ノ本リカ子著(ともにダイヤモンドコミックス/松文館)。「襲え。」と「犯せ。」が並ぶとかなりの衝撃
取材・文/井上華織
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