開幕特別企画 金本知憲×下柳剛「阪神の超変革ここまで進んだ」
2016.05.08
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新監督と盟友が本音トーク

日本一のソフトバンクをおさえてオープン戦優勝! 新戦力を試す場であることはわかっている。だがイキイキとした選手の表情を見れば「変化」は疑いようもない。同い年で、阪神で9年一緒にプレーした下柳氏が監督との会話を再現。金本改革のキモを解説する。
(4月4日発売『FRIDAY ダイナマイト』より)
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 開幕して10日、まだ結果をうんぬんする段階ではないけれど、金本(知憲・48)新監督が取り組んできた「超変革」の成果がちょっとは見えてきた気がするね。開幕直前、監督はテレビ番組でこう言うてた。
――今シーズン、「ウチのココを見てくれ」というポイントを挙げてください。
金本「明るさですね。明るくいかないと勢いがつかないんでね」
 少なくともこの変化、明るさはファンにも見てとれるはずや。もちろん、他のセ・リーグ5球団の監督が言うてたように、具体的な選手名を挙げろと言われればできると思うよ。
 打撃陣では昨年の秋季キャンプから監督が、
「オマエが変わらんとチームが変わらん」
 とあえて厳しい声をかけてきた鳥谷敬(たかし)(34)が、自覚を持ってキャンプ、オープン戦を過ごしていた。ドラフト1位の髙山俊(22)、3年目の横田慎太郎(20)をスタメンで使えるようになったし、大きく変わったと思う。投手陣では逆にベテランの藤川球児(35)が日本一のストッパーというプライドをあえて胸の奥にしまって、先発5番手として戻ってきてくれた。あの堂々たるマウンドさばき、手もとでピュッとくる速球はさすが。ここのところ、あまり入れ替えのなかった投手陣がピリッと引き締まった。監督が目標として掲げているとおり、チームのムードはたしかに厳しく、明るくなったよね。
左腕エースの能見も磨き直し!
投手王国形成のカギは真っすぐや
金本「臨時(投手コーチ)、やってくれ」

下柳「エエよ」

金本「シモには左ピッチャーを見てほしい。とくに岩崎(優(すぐる)・24)と島本(浩也・23)のふたりが先発としてひとり立ちできるようメドをつけてほしい」
 昨年10月、こんなやりとりだけでスケジュールの確認もせずに、ふたつ返事で臨時コーチを引き受けた。オレに与えられたミッションは「左投手の育成」やった。岩崎の真っすぐは140㎞出るか出ないかなんやけど、グーッと下半身を沈め、打者に近いところでリリースするから、思っているよりボールが伸びてきて、バッターは差し込まれる。いわば「特殊なフォーム」が彼の武器。ところが、疲れてくると下半身に粘りがなくなってフォームが崩れてしまう。
下柳「終盤の6〜7回の勝負どころを踏ん張り切れないから、去年は負けが込んだ(3勝10敗)。だから、彼には『インターバルピッチ』をやらせるべき」

金本「やらせぇ、やらせぇ!」
 と、こんな会話が監督とあって、今年2月のキャンプでさっそく岩崎に、インターバルピッチをやらせたんよ。オレが現役時代にこだわりをもって取り組んだ練習で、50m、40m、30m、20m、10mの各距離を1往復ずつダッシュしてすぐ、マウンドに上がってストライクを15球全力投球する。これを5セット続ける。公式戦のマウンド上は緊張で心拍数が上がるから、同じ状態を疑似的に作り出して体を慣らす練習や。ブッ倒れるほどしんどいけどね。実際、岩崎もヘロヘロになってたね。
「役立つ練習だと思います。またやります!」
 と岩崎は言ってたけど、その後、自主的にやったんかな?(笑)
 本当は島本にもインターバルピッチ、やってもらいたかった。彼の課題も体力強化だった。体を作ったうえで下半身の使い方をアドバイスしたかったんやけど……島本は内転筋を痛めてリタイアしてしまった。監督も、
「先発ローテーション候補として期待していただけにホンマに残念!」
 と言うてたね。ただ、左の先発で言うと能見篤史(36)は去年と明らかに変わった。監督は、
「ボールがぜんぜん違う。いいときのストレートに近いね」
 と絶賛しとったよ。彼のテーマは「真っすぐ」。とくに高めのストレートを磨くこと。実は去年のファン感謝デー(11月21日)のときに能見には言うたんや。能見はフォークとチェンジアップが得意球。ただ、どっちも低めに落ちる球種だから、ともするとバッターの目が慣れてくる。見逃されてしまう。フォークやチェンジアップをより効果的にするのが、高めのストレート。打者の目線を上げるというのが一番の目的で、それは能見もわかっていた。
 監督も手応えがあったんやろね、
「技巧派にはいつでもなれる。下柳にはいつでもなれる!」
 なんて能見に言うてたらしいから、すぐ、
「失礼やろ!」
 って電話で抗議しといた(笑)。
 あと、個人的に指導したかったのが榎田大樹(29)。彼がルーキーのとき、一緒にプレーしているから思い入れもあってね。1年目はガムシャラに投げて結果を残したんやけど、2年目以降、試合の勝負どころで起用されたことで「結果を出すこと」ばかり気にするようになってしまって、腕が振れなくなってしまった。技術的にはリリースのときに頭が前に突っ込んでしまっていたから、「伸び上がるイメージで投げろ」と伝えた。そうすれば腕がムチのようにしなってボールが生きてくるはずやと。
 そのかいあってか、キャンプではMVPに選ばれた。彼の復活はうれしかったね。
 今季、タイガースは補強らしい補強をしてないけど、FAで獲った髙橋聡文(32・前中日)の存在は大きいんちゃうかな。
 ストレートにキレがあるし、実績もある。
 ブルペンではランナーがいる場面を想定してほとんどクイックで投げていた。意識が高いよ。これまでタイガースにいなかったタイプやね。榎田と髙橋が中継ぎに固定してくれれば、タイガースの弱点だった「左のリリーフ問題」が解消される。彼らのおかげで勝ちを拾える試合が増えてくるんじゃないかな。
 右投手についても触れておくわ。
 ベテランや外国人に対しては何も言うことはないね。球児なんか、
金本「モノが違うな」

下柳「一番回転のエエボール投げてるわ」
 キャンプ中、監督と何回こんな会話をしたことか。ケガさえなければ、先発として結果を残してくれると思う。
 そういうたらキャンプ中、シート打撃の後、誰もブルペンに入ってなかったことがあって、
「実戦形式で投げて何も課題が出ないんか? 課題をその日のうちにツブしておこうと思わんのか? なんでそんなに意識が低いんや!」
 とカミナリを落としたことがあるんやけど、最初に行動でこたえてくれたのが球児やったね。紅白戦の後ブルペンで投げ込んでたから。彼につられて新外国人のマルコス・マテオ(31・前パドレス)まで投げとったよ(笑)。外国人といえば"キャプテンメッセ"(ランディ・メッセンジャー〈34〉の愛称)は意識が高いね。
「模範になってくれ」
 と監督に直々に言われて意気に感じたようで、率先してマテオやラファエル・ドリス(28)ら新加入の投手に全メニューを消化させとった。今季も奮闘してくれるやろう。
 昨年のホールド王、福原忍(39)も意識が高い。初日から「特守するのでノックお願いします」って言うてきたしね。2月なかば、阪神の投手会が開かれたときに誘ってもらったんだけど、その席でも福原が「シモさんの話を聞け」と言ってくれて、さらに若手左腕投手にオレの気持ちを代弁してくれた。
「おまえら、シモさんの現役時代の半分も練習してないぞ、もっと練習せなあかんのちゃうか」
 とかね。
 そして最後に藤浪晋太郎(21)。3年連続10勝しているわけやから実力は本物や。でも監督は、
「別次元のものを求めたい」
 と、スーパーエースになることを求めている。
 本人も期待の大きさは自覚しているはず。粗削りな部分があることは否めないけど、自分で課題をツブしていこうという姿勢は見て取れる。
 去年、自分の送球ミスから崩れた試合があったけど、居残りで練習して克服に努めていた。だからオレもノックしてステップの仕方を教えたりした。監督もその点を評価していて、
「自分にとって何がベストで、悪いところはどこか。つねに修正しながら工夫している」
 とホメとったよ。ウエイトトレーニングにも積極的で、上半身はだいぶ大きくなってきた。
 この先、先輩たちのいろいろなアドバイスを取捨選択して、自分の中に確固たる哲学を持つことができれば、さらに活躍できると思う。
アニキ流の大競争から待望の
生え抜き大砲&正捕手が出てくる
 セ・リーグ6球団の中で、選手の体つきは阪神がいちばん変わった。ウエイトトレーニングの成果だよね。これまで、ウエイトルームは実質、休憩所になっとった。コーチの目が届きにくいとこやから。オレはその場にいなかったんやけど、監督はキャンプ初日、球団のトレーナー陣をいきなり怒鳴りつけた。
金本「なにを選手に遠慮してんのや! ツブしてしまってもエエから、もっと追い込んだらんかい!」
 ってね。あれが超変革の原点やったと思う。
 そして「厳しさ」には「競争」という意味も含まれているよね。外野なんてマートンが抜けてポジションがふたつ空いたわけだから、横田とか江越大賀(23)らの目の色が変わって当然。それにしても髙山は期待以上やね。
「バッティングの根本的な幹ができているし、もはや完成形に近い。キャンプの途中で髙山を一軍に上げたとき、彼の打撃フォームを見て、刺激を受けるどころか、自信をなくした一軍選手が相当いたんやないか」
監督はこう目を細めとった。
 その一方で、育成契約の原口文仁(24)や中堅の俊介(28)や柴田講平(29)を一軍に上げてすぐ起用するなど、これまでなかったくらい、一軍と二軍の人事交流を活発化させとる。刺激を絶やさないんよ。
 横田もオモロイね。監督は彼のことを買っているがゆえに、
「打てるポイントがひとつしかない」
 とイジっとったけど、たしかに誘い球にひっかかるタイプかな。ただ、それでもオープン戦で3割9分以上も打てたのは、自分の打てるポイントにバットを持っていける器用さがあるのかもしれないね。監督は、
「練習でできないことが試合でできるタイプ。マンガの主人公みたい」
 と表現しとったけど、楽しみな選手だよ。
 秋季キャンプから4番候補として監督が名前を挙げていた江越はオレと同じ長崎出身だから注目しているんだけど、打撃不振で開幕前にいっぺん、ファームに落とされた。金本監督らしいなと思ったのは、落とした後すぐ、江越が出場する二軍の試合を朝イチで見に行っていたこと。「ライオンはわが子を千尋の谷に突き落とす」やと思って江越にはがんばってほしい。
 今季、一番変わったのは鳥谷だね。
 声を出すようになったし、なにより、明るくなった。キャンプで、鳥谷が特守をしているサブグラウンドを通りかかったとき、アイツ、オレの顔を見たとたん、わざとエラーしよった。
「昔を思い出した〜!」
 って。彼がルーキー時代、オレはずいぶんバックには厳しくてプレッシャーかけたから。
「トラウマ、トラウマ」
 って連呼しとったわ(笑)。
「なんならオレがマウンドに立ったろか?」
 って言ってやったら、
「やめてください!」
 って断られたけど。今年は同じショートの北條史也(21)がオープン戦で3割をマークした。鳥谷でさえも競争にさらされているからね。
 監督の西岡剛(31)のイジり方もうまかったよね。鳥谷には、
「ツッコミどころがないんだよな、あいつ。マジメだから」
 と言っておいて、剛に対しては"サボリ大魔王"って、言い得て妙なアダ名をつけて、「鳥谷とは逆や」と"口撃"し続けた。セカンドにセンターから大和(28)を持ってきたのも、剛を発奮させるためやからね。それでいて、
「体調が万全ならスタメンは西岡」
 とスポーツ紙の記者にコメントして、上本博紀(29)にも危機感を与えるという……。
 剛がケガなくキャンプを過ごせたなんて何年ぶりのこと?
 ダッシュひとつとっても、リレー形式にして楽しさを取り入れた。BGMで運動会のテーマを使ったり、気配りが細かかったよね。
 正捕手不在もタイガースの弱点やったけど、ここにも激しい競争が持ち込まれた。
 これは私見だけど、キャッチャーはピッチャーからの信頼を勝ち取らなければいけないポジションで、それは一朝一夕では築けない。どれだけピッチャーのボールを受けてきたか、その数が重要なわけで。となると現時点で、もっとも若手のボールを受け続けてきたのは岡﨑太一(32)になる。プロ12年目で自身、今シーズンがラストチャンスということもわかっている。
「言われた練習をやり通す根性を持っているから、どうしてもアドバイスしたくなる。打つことに関しては、いまやもう別人」
 と監督は評価してたから、梅ちゃん(梅野隆太郎・24)もウカウカしてられないでしょう。
2番打者も簡単にバントしない
"超攻撃的野球"を味わえ
金本「キャンプ中、ファンサービスで、なんかオモロイことできんかな?」

下柳「オレと勝負しようや!」

金本「キャッチャーは矢野(燿大(あきひろ)・作戦&バッテリーコーチ)でエエか」

下柳「ショートは(田中)秀太(スカウト)でエエやん?」
 キャンプ中、食事したときにこんなやりとりをしたことがキッカケで、余興としての監督との3打席勝負が実現(2月11日)した。
 オレが投げて3打席中でヒットが出たら監督の勝ち。抑えたらもちろんオレの勝ち。実はこの勝負にそなえて監督、陰で打ち込みをしとったらしいよ(笑)。オレも負けたくないから、ブルペンに入ったり、バッティングピッチャーをして調整したんやけど、勝負の3日くらい前に肩が痛くて上がらなくなって、チームドクターに痛み止めの注射を3本も打ってもらった。
下柳「肩が痛くて勝負ができんぞ……」

金本「オレも内転筋と脇腹が痛い(笑)」

下柳「対戦前に、ふたりともツブれてまうな」
 こんな話をして笑ったのを覚えてるよ。
 1打席目はサードフライ。2打席目は2球で追い込んだ後、本気で三振をとろうとスライダーを2球続けたんやけど振らない。それでストレートを狙い打たれたんやけど……ヒットを打った後の監督のドヤ顔が忘れられんね。この人は本当に野球が好きなんやな、負けずギライなんやなとね。今季の阪神は相当攻撃的になると見ている。最後まで勝負にこだわる姿勢は、監督本人の現役時代の姿そのもの。
「簡単にバントはしない」
「2番には打てるヤツを起用する」
 と公言しているけど、8番バッターの打撃もガラっと変えてくると思う。2アウトランナーなしでバッターは8番。次打者はピッチャー。このケースで8番バッターがどんなバッティングを見せるのか。注目して見てほしい。
金本「シーズン中もじゃんじゃん、アドバイスしてくれ」

下柳「気づいたことがあればメールするわ」
 監督とはこんな話をしてる。今後も練習や試合を積極的に見に行くつもりや。同い年で盟友であるカネモっちゃんの力に、少しでもなれたらと思っているよ。
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2月11日、ファンサービスで行われた金本VS.下柳3打席勝負はライト前ヒットを放った監督が勝利
取材・構成/伊藤 亮 PHOTO/鬼怒川 毅
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