日銀・黒田東彦総裁が「アベノミクス失敗」にかけた保険
2016.06.06
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参院選
勝利のために
増税延期
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首相は伊勢志摩サミットで、「リーマン・ショックの発生を防げなかった轍を踏みたくない」と唐突に主張した
「財務省がイヤがることをするよ」
 5月末、官邸を訪れた知人に対し、菅義偉(よしひで)官房長官(67)はそう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべたという。
 安倍晋三首相(61)は6月1日、記者会見で消費税率を10%に上げる時期を、2019年10月まで2年半先送りすると発表した。会見では、
「世界経済が大きなリスクに直面しているいま、アベノミクスに再点火して、ロケットを大気圏外に脱出させる速度を上げていかなければなりません」
 と強調したが、ホンネは7月に迫った参院選を意識していることがミエミエだ。
「首相は選挙を意識し、増税を見送った。衆参で単独過半数を実現して、長期政権で憲法改正をやりたい、という一心でしょう」(日銀出身の経済評論家・池田健三郎氏)
 増税延期が明らかになった直後の世論調査では内閣支持率が5%上昇し、安倍首相の目論見は図に当たった形だが、投資家や諸外国の見る目は厳しい。 
「増税先送りで財政が悪化するため、日本国債の格付けは1ランク引き下げられることになりそうです。巨額の財政赤字を抱える日本の国債はS&Pの格付けでシングルAプラスで、中国や韓国より下、スロバキアと同じランクです。そこからさらに下げられると、ジャンク債に近づく」(日本総研副理事長・湯元健治氏)
 アベノミクスは、毎年巨額の赤字国債を発行し、それを日銀に引き取らせることによって成立しているが、日本国債の信用力はジワジワ目減りしている。いつまでいまの手法を続けられるのか。
 実は5月27日、日銀・黒田東彦(はるひこ)総裁(71)が発表した平成27年度決算のなかの、ある項目が関係者の注目を浴びている。
「今年はじめて、『債券取引損失引当金』として国債の利息収入のうち4501億円を自己資本に組み込んだんです。日銀の保有する債券はほとんどが国債。つまり、将来の国債価格下落による損失に備えた準備金です。
 毎年国庫に納付していた当期剰余金のうち、今年はその半分以上を引当金とした」(全国紙経済部デスク)
 日銀は昨年11月、剰余金を引当金に充てる制度を拡充。今回この制度を適用して、引当金を積み増した。
 前出の池田氏は、日銀の危機感の表れだ、と指摘する。
「この引当金は、政治がメチャクチャをやっても日銀として財務の健全性を失わないようにしましょう、と予防的にやっているんです。官邸のやっていることがメチャクチャだぞ、と国会で追及されても、日銀は健全です、頑張っていますという防御策です」
 嘉悦大学ビジネス創造学部の小野展克教授も、
「(アベノミクスから)通常の金融政策に戻す出口対策として備えておこう、という日銀の組織防衛でしょう。国債価格が低下した場合のリスクは政府も日銀も負う。日銀のバランスシート健全化のための措置と考えられます」
 と話す。いま、日銀の保有する国債は349兆円。しかもそのうち301兆円が長期国債で、何らかのきっかけで国債が暴落したとき、日銀は大きな損害を被る。
 当面の国債価格は安定しているが、前出の湯元氏は、「団塊世代の医療費が膨張する2020年代中盤ごろ、ヘッジファンドなどの外国人によって売られ、国債暴落の可能性もある」と見る。
 黒田総裁は4月のアメリカ・コロンビア大での講演で、
「現在、世界の多くの中央銀行は、伝統的な金融政策手段をほぼ使い果たした状況で、物価に強い下押し圧力がかかる中、予想インフレ率を望ましい水準で安定させるという、過去に例のない難しい課題に直面しています」
 と危機感をあらわにしていた。1年に5000億円前後の引当金は国債暴落へのセーフティネットとしては心許ないが、黒田総裁にとっては将来の危機に備えた「保険」であり、安倍政権に対する「危険信号」ということだろう。
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練りに練ったマイナス金利政策が思いのほか不評で、最近の講演では焦燥感がうかがえる発言もあった
PHOTO:會田 園 共同通信社
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