連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第9回 「コリジョンルール」の功罪
2016.07.09
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5月11日の巨人戦、阪神・原口は左足と腰を後ろに引いて、ベースを空けていたが……
 ホームベース上での捕手と走者との衝突を避けるため、今季から導入された「コリジョンルール」に関して、NPB(日本野球機構)が見直しを検討しています。
 開幕前から現場では「捕手はベースの前に出ないといけないので、ほとんどセーフになると思います。送球が逸(そ)れたら終わりです」といった声ばかりがあがっていた。運用基準も不明確で、いずれ問題が起こるだろうことは容易に想像できました。
 その思いを強くしたのが5月11日の阪神対巨人戦です。センターからのワンバウンド送球が少し三塁側に逸れたため、阪神の捕手・原口文仁(ふみひと)(24)はベースを跨(また)ぐ形になったのですが、そのまま腰を後ろに引いて走路を空け、スライディングしてきた走者の足にタッチしました。
 タイミングは完全にアウト。走路も確保されていましたし、実にフェアな動きだったと思います。主審もアウトの判定を下しました。ところが、巨人側の要求を受けてリプレー検証をした結果、コリジョンルールが適用されて判定はセーフへと覆(くつがえ)りました。ここまで厳しくされては、捕手はどうしようもない。少しでも送球が逸れればセーフだから、駆け引きではなくギャンブルで、どこの球団の三塁コーチも走者をホームに突っ込ませるようになっています。これでは野球が大味になり、日本らしい繊細さがなくなってしまいます。
 ただ、シーズン途中での変更には反対です。急に変えると言われても、選手は戸惑うだけ。「シーズン中でも不満を言い続ければルールは変えられる」という前例を作ってしまうことにもなります。
 コリジョンルールはメジャーリーグが’14年から正式導入したもので、NPBがどれだけの議論を尽くしたかはわかりませんが、アメリカに倣(なら)いすぎてしまうところがある気がしてなりません。本当に必要だったのか。そこまで言うのは、日本のプロ野球界には「ルールを変えてもあやふやになってしまう」ケースが少なからずあるからです。僕が現役のころも「ストライクゾーンを高めに広くする」、「2段モーション禁止」という試みがなされました。しかし、前者は中村紀洋さん(近鉄など)から「これは松坂ゾーンや」と言われるなど、打者たちの反発が強かったからか、いつの間にか元に戻ってしまいました。後者も「国際大会に対応するため」という説明だったのですが、静止することがボークなだけで、メジャーリーグで「2段」を禁止しているわけではなかった。結局、徹底されることなく、最近は2段モーションの投手が増えています。ルールを導入、変更するにあたって、NPBは日本の野球をどうしたいかをもっと打ち出してほしいですね。
 コリジョンルールが結果として捕手や走者のケガを防いでいることは確かです。廃止ではなく、オフに選手や審判ら現場の意見も聞きながら、逆にアメリカが取り入れようと思うくらいの実用性のあるルールへと磨き上げてもらいたいです。
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さいとう・かずみ/’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率7割7分5厘。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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