3.3兆円買収の大バクチ ソフトバンク孫正義が考える「これからの10年」
2016.08.01
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有利子負債12兆円のプレッシャーは、この男にはないのか
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ソフトバンクワールド2016で登壇した孫社長。興奮気味に買収や未来のビジネスについて語った
「孫さんは30~50年先を見て、3兆3000億円も出してアームを買収した。(ソフトバンクの)社外取締役を務めているので、私も買収の議論の場にいました。ただ、技術革新のスピードは速いので、私にそんな勇気はない。私なら3300億円でも買わないでしょうね」
 ソフトバンクグループの孫正義社長が英半導体大手のアーム(ARM)社の買収を発表。その4日後に開かれた日本電産の決算説明会で永守重信会長兼社長はそう語り、苦笑いした。
 50社近くの企業買収を手がけ、孫社長が「名経営者」と尊敬する永守会長でさえ驚いた、まさに大バクチだった。
 ソフトバンクは現在、12兆円弱の有利子負債を抱えている上、今回の買収でみずほ銀行からさらに1兆円を借り入れる。ソフトバンクの株価は買収発表後に一時11%超の「大暴落」を記録した。
「上場している企業を買収する場合、市場の株価にプレミアム(上乗せ)をつけて買わないと株主が納得しません。今回は43%近くという高いプレミアムをつけましたが、6月23日の国民投票でイギリスのEU離脱が決まってポンドが大幅に下がっていたため、円ベースで見ると実質的にプレミアムは払っていない。すごく得な買い物だったわけです」(マイクロソフト日本法人元代表の成毛眞氏)
「人工知能」が新ビジネスに
 EU離脱後、為替市場でポンドが急落した局面で、密かに巨額のポンドを買う金融機関があり、市場関係者はその真意をはかりかねていたが、実はソフトバンクがいくつかの金融機関に分散してポンドを調達していた。もし買収交渉が頓挫していれば無駄ガネになっていたが、孫社長の勝負勘には独特のものがある。
孫社長は’06年にみずほコーポレート銀行(当時)などから1兆円以上の借金をして英ボーダフォンを買収し携帯事業に進出。iPhone導入などをテコに国内携帯キャリア3位にまで登りつめた。’12年にはアメリカ携帯大手スプリントを約2兆円で買収した。
「孫社長は当初、スプリントを足がかりに、『通信の世界で世界一を目指す。(米No.1の)AT&Tと勝負する』と語っていたが、業績は低迷。最近では『スプリントを買ったのは失敗だった』と言い、水面下で同社の売却も模索していた。すでに携帯電話事業の将来性に見切りをつけ、会社の方向性を大きく変えようと目論んでいる」(証券会社アナリスト) 
 そこで孫社長が目をつけたのが、今回買収を決めた半導体大手のアーム社だ。
 孫社長は7月21日、「ソフトバンクワールド2016」で登壇し、「シンギュラリティについて1年間、私なりに考え続けた答えがアームだった」と語った。
 シンギュラリティとは、人工知能が人類の知能を追い越す転換点のことで、そのときにキーになるビジネスを考えていたという。つまり、孫社長の考える「10年後のソフトバンク」の柱は携帯電話ビジネスではない。
「孫社長は『今後20年で、アームは1兆個のチップを地球上にバラ撒くだろう』と話しています。モノとモノが直接ネットを通じてつながり合い、反応し合うようになるでしょう」(経済評論家の山崎元氏)
 買収には他の魅力もあったと前出の成毛氏が指摘する。
「アーム社の取引先はトヨタ、アップル、IBMなど名だたる企業ばかりです。取引を通してそういう企業の動向が分かるので、その情報をもとに投資すれば、3兆円はすぐ返って来るでしょう」
 成長産業に誰よりも早く目を着け、巨額の投資をして数年後、数十年後に大きな利益を得る――今回の3.3兆円買収は、そのための大きな布石なのかもしれない。
PHOTO:蓮尾真司
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