【短期集中連載】ヤバい、ヤバすぎる!世界の危険地帯に潜入ッ! 第6回 バングラデシュ 船の墓場
2016.08.03
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チャーターしたボートの船頭。普段は漁師として働いている
「船の外壁や、ドアなどをガスバーナーを使って切り取り、それを岸まで人力で運ぶんだ。大きな塊はロープに結びつけ、大勢で引っ張る。時には船からオイルやガス漏れがあり、気づかずバーナーを使って、爆発するような大事故もあったよ」
 解体所近くの集落に住む労働者は、過酷な作業環境についてそう語った。
 私は6月末、バングラデシュ最大の港を擁する海港都市チッタゴンを目指した。首都ダッカから陸路で8時間。ここには「船の墓場」と呼ばれる場所がある。世界中から大量の廃船が集められ、日々解体作業が行われているのだ。しかも、巨大なタンカーや客船を重機など使わず、ほぼ人力だけで解体している。
 街の中心部に向かう道路沿いには見慣れない金属部品が並んでいた。
「船から運びだされたリサイクル品ですよ」
 案内人の男が教えてくれた。
 船の外壁の一部と思われる鉄板やエンジン、階段、イカリなどの巨大な金属塊が並ぶ。また、キッチンのシンクや便器だけを扱う"専門店"も存在していた。
 あるデータではバングラデシュ国内の鉄鋼生産の半分は、船から取り出された鉄のリサイクルでまかなっているという。船の解体は鉄の需要をまかなう一大産業であると同時にチッタゴンの街を支える最大の収入源となっているのだ。
 案内人によると、"解体所"が近くにあるというので、早速海に向かった。小さな子どもや労働者風の男たちがたむろする集落をいくつか抜けると、視界の先には巨大な鉄の塊が見えてきた。それが解体中の船であることはすぐにわかるのだが、船体の前後から切り崩されているのでとても違和感を感じる。
 ちょうど干潮時だったため、海岸から約100mのところに座礁したような形で巨大な船が何隻も並び、なんとも不思議な光景だ。しかもそのすぐ横のぬかるみを米粒大にしか見えない人々が歩いている。解体作業を行う労働者の姿だった。
 解体中の船をさらに近くで見るため、ボートをチャーターし、沖から迫ることにした。すると案内された桟橋にはこれまたリサイクル品の元救命ボートが大量に繋がれている(2枚目写真)。オレンジ色のボディが目立つ救命ボートも普段は漁船として使用されているのだという。
 解体を待つ船の数は正確には把握できない。ただ、沖から見通せる範囲はびっしりと巨大な影で埋め尽くされていた。目視できるだけでも100隻は優に超えているだろう。
 船の解体作業はかつて「世界一危険な仕事」と呼ばれていた。ここ数年、賃金も上がり、徐々に労働環境は改善されているというが、命がけの仕事であることには変わりはない。
「息子にはさせたくない仕事だよ」
 冒頭の労働者は、そう言って顔をしかめた。
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整然と並ぶオレンジ色の救命ボート。普段は漁船として使われている
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リサイクル業者により販売されている船のイカリ。重さによって値段が異なる
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沖合から見た船の墓場。砂浜に乗り上げるくらい岸ギリギリまで運ばれ解体を待っている
写真・文/丸山ゴンザレス(危険地帯ジャーナリスト)
丸山ゴンザレス 世界の危険エリアを取材するジャーナリスト。TBS系『クレイジージャーニー』に出演。近著に『アジア罰当たり旅行(改訂版)』(彩図社)がある
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