超ブラック企業「死ぬまで働け」
2016.08.16
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バス運転手は月に439時間労働

休日もなく、朝から晩まで働き通し。上司からは「シバくぞ、ボケ!」と罵声を浴び、会社の床で寝る日々。ミスをすれば弁償金として自腹を切らされ、残業代は未払い。そんな希望のない労働環境で働かされる、従業員たちの悲痛な叫びを聞いてほしい。
温野菜
休日なしの1日16時間勤務で心身消耗
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昨年7月のA君の勤務票。休みは1日もなく、月末は連日早朝6時近くまで働いていた。月の総労働時間は438時間
「死ねよ、テメェなんか。お願いだから自殺でもしてくれよ!」
 女性店長から連日のように罵声を浴び、うつ状態になったアルバイト学生がいる。食べ放題チェーン「しゃぶしゃぶ温野菜」の千葉県内の店舗で働いていた、大学2年生A君(当時20)だ。A君はバイトをやめた現在でも病状が完治せず、医師の診断を受けている。以下は、A君から相談を受けたブラックバイトユニオン(BU)が明らかにした壮絶なバイトの実態だ。
 A君が求人誌を見て温野菜に応募し、採用されたのは’14年5月のこと。時給850円、週4日勤務の契約だ。当初は条件どおり働いていたが、12月に入り仕込みや閉店後の作業もしていたベテランのバイトがやめると、A君の労働環境は一変する。BUのスタッフが語る。
「Aさんのシフトは、しだいに4日から6日に増えていきました。勤務時間も増え、閉店(深夜0時)後の仕事を任されることも。鍋の油を落とし、テーブルを清掃しタレを補充。明け方まで働かされるようになったAさんが『やめたい』と店長に伝えると、『ミスが多いから懲戒免職にするぞ。懲戒免職になると就職に影響が出るからな!』と脅されたそうです」
 ’15年4月になると、状況はさらに悪化する。4月12日以降8月11日まで、1日も休むことなく明け方6時近くまで、多い日には16時間もの勤務を強いられたのだ。A君は2〜3時間睡眠してから大学に通っていたが、しだいに足が遠のき2年生大半の授業を欠席。温野菜では疲れからかタレをこぼすなどのミスを連発してしまう。そのたびに、店長から罵声を浴びた。
「そんなにツラい顔をしてるなら、死んじゃえば? 今日あたり」
 さらにミスした分は自腹を切るよう命じられる。円滑に働かなかったため、2時間の制限内で客が食べ放題コースの食事を終えられなかったなどの理由で、余った食材の購入を求められたのだ。その総額は22万8416円にのぼる。
「もう耐えられないとAさんが再び辞職を申し出ると、店長に『オマエのせいで店が潰れたら4000万円の損害が出る。請求書を実家に送るぞ!』と怒鳴られたそうです。Aさんはミスで店に迷惑をかけてしまったと自分を責め、大学に行けない窮状(きゅうじょう)を親にも相談できず悩んでいました」(BUスタッフ)
 A君はネットでBUの存在を知り相談。医師の診断を受け、バイトをやめた。温野菜のフランチャイズ本部レインズインターナショナルは、本誌の取材に以下のように答えている。
「(A君の)勤務実態は把握していません。商品の自腹購入については、Aさん本人から申し出があったようです。店長がパワハラ発言をしていたことは確認されました。Aさんに謝罪するよう要請しています。その他の点も事実であれば適正な方法で解決いたします」
 A君は未払いの賃金や自腹で購入した食材費の返還を求めている。
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A君がバイトしていた店舗。やめた直後に医師から「うつ状態」と診断され、人と目も合わせられなかったという

アリさんマークの引越社
"囚人服"でひたすらシュレッダー
 赤井英和の「なんでやろな〜」のCMでおなじみ、アリさんマークの引越社。そのすさまじい労働実態を30代〜40代の現役および元管理職社員の3人が告発。以下が、その内容だ。

●連帯責任で弁償金4万円を天引き
「オマエも4万7800円払え」
 元副支店長のB氏(30代)が、新人時代に上司から命令されたのは千葉県内の大型マンションで行われた住民のいっせい入居直後のことだ。作業中、社員の1人がエレベータの内壁にキズをつけてしまった。上司は「チーム全体の責任だ」と、業務にたずさわった約20人全員に弁償金の支払いを指示したのだ。
「弁償金に同意する書類へのサインを求められました。でも私は、そのエレベータを一度も使っていない。4万7800円という金額の根拠もわかりません。『イヤです』と拒否すると上司はその数日後、誰かが勝手に書いた書類を見せ『オマエの名前は書いてあるから』と言うんです。翌月の給料からは4万円以上が天引きされていました」(B氏)
 引越社には、こうした連帯責任による天引き制度がある。B氏が続ける。
「なかには弁償金で100万円以上の借りを会社に作り、毎月給料から2万〜3万円ずつ天引きされている社員もいます。求人広告では『年収1000万円』とうたっていますが、実際に手にするのは300万円がやっと。会社に借りを作ったら、返済するまで退職できません」
 引越社の井ノ口晃平副社長は本誌に反論している(以下、同社のコメントは井ノ口氏)。
「弁償金の天引き制度はあります。連帯責任もありうる。だが5万円以上の高額な要求はしませんし、本人の承諾も得ています。作業中に破損したものかどうか、責任のあいまいな事故に関しては天引きしていません」

●1週間連続で会社の床で寝る
「なにしとんじゃワレ!」
 引っ越し現場の作業員やドライバーの気性は荒い。引越社は名古屋を起点に西日本へ進出したため、若手社員が関西弁で怒鳴られることも。
「ガムテープなどの備品を持っていくのが遅れただけで、『シバくぞ、ボケ!』と叱られるのは当たり前。先輩と食堂に入って注文するメニューに迷うと、『早(は)よせえや!』と脚を思い切り蹴られます。朝から晩まで怒鳴られ続け、毎日意識モウロウでした」(40代の元支店長C氏)
 管理職になっても状況は変わらない。
「副支店長以上は、すべてのドライバーが戻ってくるまで会社で待っていなければならない。クレーム対応などに追われ、月に休みが2日もないというのもザラです。私も支店長時代、会社のホコリだらけの床に新聞紙をしいて1週間泊まりこんだことがあります」(C氏)
 副社長も長時間労働を認めた。
「繁忙期(はんぼうき)は長時間労働があります。労働基準監督署からの勧告もあり、改善している最中です」

●社員同士で酒を飲むと減給
「飲酒心得5箇条」
 引越社の社員は、入社するとこんな誓約書(写真上)にサインさせられる。勤務中はもちろん、勤務後社員同士で酒を飲むと罰せられるのだ。
「違反すると、最悪の場合は解雇されます。仕事終わりに居酒屋で上司のグチもコボせない。同僚の結婚式出席にも事前申請が必要です。会社は、社員同士で団結されるのを恐れているのでしょう」(30代の現役社員D氏)
 D氏によると密告も奨励されているという。
「社員同士の飲酒を密告すると、報賞を受けられるんです。十数人が酒を飲んでいたことを密告した社員が、5万円の商品券を会社からもらったと聞いたことがあります。現に休日に数人が集まって海岸で焼き肉をしながら酒を飲んでいたことが社内アンケートで発覚し、減給された社員たちもいるんです」
 引越社の見解だ。
「たしかに飲酒禁止のルールはあります。弊社がたずさわるのは、ドライバーの多い引っ越し業務です。朝7時から運転しなければならないときもある。二日酔いなどで事故を起こしたらたいへんです。通常のデスク業務でも、8時間の睡眠が必要といわれていますから。禁止されていることなので、見つけて報告した社員は評価します。ただ、高額の商品券を渡すなどということはありえません」

●逆らったらシュレッダー係に
 D氏は現在、閑職にある。朝7時半から午後4時半まで、誰とも話さず立ったままひたすら不要な書類をシュレッダーにかけているのだ。
 きっかけは昨年1月の事故だ。D氏は営業車を運転中に追突事故を起こし、会社は48万円の支払いを命令。毎月1万円ずつ給料から天引きされることになった。
「相手方の運転手はムチ打ちになったと聞きますが、業務中の事故です。私が全額負担するのはおかしい。社外組合に相談すると『支払う必要はない』と言われたので、天引き金の返還を会社に請求しました」(D氏)
 するとD氏は突然、5月に営業職から電話アポイント部に異動になり、シュレッダー係になった。D氏によると囚人のようなオレンジ色の服を着せられイスも与えられず、月給は38万円から19万円と半額になったという。
「上司に『なんでこんな仕事をさせられるんですか』と訴えると、『遅刻ばかりしてなに言うとんねん!』と叱られました。2回ほど遅刻したことはありますが、事前に連絡していたのに」
 8月の朝礼ではさらに衝撃的なことが起きる。
「報告があります。D君、前へ」
 人事部の係長に呼ばれると、80人ほどの社員の前に立たされ懲戒解雇を命じられたのだ。
「突然ですよ。『根拠はなんですか』と聞いても、まったく応じてくれない。しかも会社を誹謗(ひぼう)したという『罪状』を、全支店に配布されたんです。私は処分を不当として東京地裁に提訴。10月に復職できましたが、立ったままでのシュレッダー業務は続いています」(D氏)
 井ノ口副社長の反論だ。
「弊社では各支店長が集まり営業マンを指名するドラフト会議が4ヵ月に一度ありますが、Dさんは声がかからなかった。営業職から外されても仕方がないでしょう。解雇が不当だという司法判断には従います。Dさん専用のイスがないのは事実ですが、シュレッダー近くにも座るところはあり、冷暖房は完備され劣悪な労働環境ではありません。内勤の方の服の色は仕事内容により決まっており、シュレッダー係はオレンジ色を着てもらっています」
 紹介した3人の証言は、引越社の労働実態を示す一部にすぎない。
引越社の飲酒禁止誓約書。許可なく休日に複数の社員が集まり食事をすることも禁止
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引越社の勤務実態を語るD氏。’11年1月に中途採用で入社し、営業マンとして関東地区1位の成績をあげたことも

長距離バスドライバー
極度の疲労で座るとすぐに爆睡
 今年1月15日、長野県軽井沢町で大型ツアーバスが道路から転落し15人が犠牲となった。事故を起こした土屋広運転手(65、死亡)は「長距離の経験がほとんどないのに運転をさせられた」と語っていたことが明らかになったが、業界の劣悪な環境はいまに始まったことではない。
 栃木県内に住む高速ツアーバスのドライバーE氏(当時44)が亡くなったのは、’12年9月23日のことだ。脳出血で倒れる前日までの1ヵ月間、休みは1日もなく、総労働時間は439時間を超えた。E氏の弟が憤る。
「兄は栃木県内から神戸や福岡間を中心とした、長距離ツアーの深夜バス運転手でした。多い日は17時間に及ぶ勤務。夏休みや年末年始などの繁忙期には休日がほとんどなく、夕方から翌日の朝まで、長時間の運転を強いられました」
 ’10年に栃木県内のバス会社に入社したE氏は、大型二種免許取得から20年近くたつベテラン。8人ほどのドライバーで7台のバスを運転し、月に40便ほどを運行する同社では重宝された。バスにはドライバー2人を乗せる交代制がとられていたが、公平に運転時間が分割されていたわけではない。E氏の母親が嘆く。
「よく息子は疲れきった顔で『(同乗ドライバーが未熟で)今日はほとんど1人で運転してきちゃったよ』と話していました。家に帰ってイスに座るとすぐに爆睡してしまうので『そんなんで体は大丈夫なの?』と聞いても、『(運転手の)人数が少ないんだからしょうがねぇ』と答えるばかり。『泊まりならいいけど日帰りはツラい』ともコボしていました」
 揺れるバスのなかで、狭い座席を倒して横になっても体は休まらない。自宅では母親が朝起こしに行っても、1度では目覚めなかった。
 そして亡くなる2日前、E氏は自宅の2階で嘔吐して倒れる。すぐに救急車を呼んだが、意識は混濁し治療のかいなく脳出血で亡くなった。
 社外労働組合の支援を受け約4200万円の損害賠償を求め争っていた遺族が、ようやくバス会社と和解したのは今年2月のことだ。
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関係者の証言や資料をもとに労働基準監督署が作成したE氏の労働時間集計表。時間外労働時間は263時間
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生前のE氏の写真。「定員が埋まらないと困るから」と、自身の運転するバスに両親を乗せたことも10回ほどある。幼少期から車好き

積水ハウス
80時間の時間外労働も残業代ゼロ
「終電ギリギリまで働き、眠りにつくのは深夜2時ごろというのもザラです。忙しければ朝5時には起床。意識がモウロウとして立ちくらみがし、食事も満足にできませんでした」
 3月4日、厚生労働省で記者会見を開いた20代の男性F氏は、前職で働いていたときのツラい日々を振り返った。会見には、同じく20代のG氏も参加。2人は大手住宅メーカー、積水ハウスに勤務していたが、最長で月80時間近く残業しても残業代は払われなかったという。
 2人が積水ハウスに入社したのは’13年4月。3ヵ月間の研修期間をへて、関東地方の支店に営業職として配属された。仕事内容は新規顧客の獲得だ。朝8時ごろに出勤して、午後は大半が外回り。夜は契約した顧客へのサービス業務についやされ、土日も分譲住宅への誘導や接客などの仕事が入ることが多かった。前述の会見で、G氏はこう証言している。
「同期や先輩が長時間労働に苦しんでいるのを見てきました。営業マンの心身が壊れると、お客さんとの関係が続けられません。積水ハウスではやめてしまう営業も多かった。私自身も、目まいや不眠に悩まされていました」
 営業職には大きなノルマがある。F氏によると、月に獲得すべき顧客は2件。担当地域内に建てられているモデルハウスで定期的に行われている見学会では、そのたびに2組を参加させるよう指示されたという。達成できなければ上司から厳しい叱責を受けた。長時間労働とプレッシャーで、2人は心身に異常をきたし’14年に入りいずれも休職。弁護士らと相談し、翌年7月に東京地裁へ労働審判を申し立てた。
 争点となったのが残業代の未払いだ。F氏は多い月で67時間、G氏は79時間の時間外労働をしていたが、支払われていたのは23万円ほどの固定給のみ。営業職は外回りが多く労働時間を正確に把握できないという理由で、残業代の多くを支給されなかったのだ。
「積水ハウスでは、『事業場外(じぎょうじょうがい)みなし労働時間制』という制度を採用しています。会社の外で働いている時間を算定するのは難しいため、一定時間働いたとみなす制度です。営業職では、朝9時から夜7時まで働いたとみなすのが一般的です」(同社社員)
 だが2人は携帯電話を持たされ頻繁に上司に連絡し、スケジュール表で予定と実績を管理されていたと主張。会社は勤務実態を把握しており、労働基準法で認められる事業場外みなし労働時間制の導入要件を満たしていないとし、F氏は残業代約271万円、G氏は約115万円の支払いを積水ハウスに求めたのだ。2人は冒頭の記者会見で、積水ハウスとの和解を発表(具体的な内容は非公開)。本誌の取材に対し、積水ハウスは次のように回答している。
「内容については公開しないという和解条項がありますので、個別のコメントはいたしかねます。弊社では、指摘されている『事業場外みなし労働時間制』について、今回の審判以前にすでに見直しをすませております」(広報部)
 F氏は「同じように労働環境で苦しんでいる人は多いと思う。私も最初はどうしていいかわからなかったが、まずは弁護士や労働組合に相談してみることが大切だ」と話す。
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厚生労働省で会見する積水ハウスの元社員。労働審判を申し立て会社から何かされるのではと不安だったという
PHOTO 會田 園 佐藤茂樹 竹本テツ子 濵㟢慎治 
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