フライデースクープノンフィクション 川崎中1殺人事件の「鑑定人」が明かす 主犯少年と9回12時間の面会(後編)
2016.08.14
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上村遼太くんは明るい性格で、いつも冗談を言ってみんなを笑わせようとしていたという

 2015年8月、横浜拘置支所の面会室に出向いた駒沢女子大学の須藤明教授は、アクリル板を隔てて初めてA(19)と対面した。Aは表情の変化が少なく、受け答えは最小限だった。須藤教授は「頑ななまでに防衛的」という第一印象を持ったという。
 前編に続き、須藤教授が行ったAとの面会の様子をお伝えする。計9回、12時間にわたる面会を通じ、どのような実像が浮かび上がってきたのか。

 語彙力、表現力自体の問題もありますよね。それと自分を表現する機会が充分でなかったということ。彼は生い立ちの中で、自分の情緒を受け止めてもらうような場面がなかったのです。言い分が理解してもらえないと「どうせ言ったって仕方ねえ」となるじゃないですか。
「対象希求性」という専門用語があります。これは自分を理解してくれる対象を求めるという意味。あらゆる子供は対象希求性を持っていますが、それが失われていくと大人に対しての壁を作り、自分の理屈で物事を処理する世界を作ってしまう。Aの抱える問題は、良い大人とたくさんの出会いがあれば改善されていたかもしれないのです。
 Aの母は、愛情深い人ではあると思うんです。一方では感情的になりやすい。彼はどこかで母親の愛情深さを分かっていました。外国籍の母は日本に来て何年も経っていますが、日本語が堪能ではなく、Aとは言葉でのやり取りがあまりできなかった。彼の言語的な発達が弱いのは、親の体罰的な関わりもあるだろうし、母親の日本語の乏しさがあったと思われます。

 事件当日、LINEで上村くんを呼び出したのはBだった。河川敷の事件現場で「お前もやれよ」とナイフを持たされ、「ごめんな」と呻吟しながら上村くんの頬に刃を当てたという。
「Bの生い立ちは、同情の目を向けたくなるほど悲惨なものでした。Bはフィリピン人の母と日本人の父との間に生まれたが、実母の男が次々と変わるため、本人は実父の顔を知らずに過ごしてきた。母のネグレクトが酷く、かつては母の親戚がいるフィリピンに置き去りにされたこともあるといいます。その母は少年審判が終わった後、再婚し、アメリカへ渡ってしまった」(前出の全国紙社会部記者)
 Bは公判で「やらなければ今度は自分がやられると思った」と"緊急避難"を主張。3人の中でもっとも刑期が短い懲役四~六年の不定期刑が言い渡された。Cは公判で唯一無罪を主張。横浜地裁は6月16日、懲役6~10年の不定期刑を言い渡したが、その後、Cは東京高裁に控訴している。
 
 Aは安心して付き合える仲間の一人としてBを見ていました。その一方で、公判では三人の関係の希薄さも明らかになりました。3人の間には、ブレーキ役がいなかったのです。結局、出口がなくなってしまった。Aにとっては上村くんに"焼き"を入れれば自分がまた追い込まれる。追い込まれていった原因を作ったのは上村くん。そんな時にCからカッターナイフを渡されてしまった。途中で止めるわけにはいかない。それで螺旋状に殺意が芽生えてしまったのです。Aは公判で「誰かが止めてくれたら自分はヤラなかった」と言っています。それが正直なところだと思うんです。ですから、関心はいつも自分。弱っている上村くんを見て「可哀想だな」というより、それを見れば見るほど自分が脅かされていると感じてしまったのではないか。常に自分に関心があり、怒りが恐怖心になって戻ってきたのでしょう。Cからナイフを差し出されて断れなかったのは、Cに対しても「引っ込みがつかない」というような感情があったと思います。
 殺人罪で起訴されたAは、現在懲役9~13年の刑が確定しています。判決文では、私が証言したAの生育歴の問題を十分考慮していただいたという印象を持っています。この点は、Aの弁護を担当された弁護人たちの熱心な弁護活動もあってのことと思います。最初、何も知らない段階で事件報道を見ると「ひどい事件だ」という印象を受けますが、背景が見えてくると、応報的な処罰感情だけでは行かない部分が出てきます。教育的なかかわりの必要性も見えてくるわけです。被害者参加制度による遺族の悲痛な叫びとの狭間の中で裁判員たちは悩まれたのではないでしょうか。刑事司法とは、そのような多様な要素を考慮する中で適切な判断をしていくことが必要でしょうし、そこに多少なりとも貢献できればというのが私の基本的なスタンスです。

 須藤教授との面接を通じて、少しずつ自分自身と向き合うようになったAは、現在、少年刑務所に移送され、贖罪の日々を送っている。
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上村君の殺害現場となった河川敷には、向日葵が咲いていた
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