スクープ・レポート 森喜朗元首相を死の淵から救った「1回200万円の抗ガン剤」
2016.09.05
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昨年12月から始め、わずか半年で奇跡の回復
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実際の患者支払いは国保と高額療養費制度で月額4万円前後
「森さんは本当に幸運だよ。一時は憔悴しきっていたのに、オプジーボが効いたんだろう。全国の肺がん患者に勇気を与える意味でも、森さん自身にその治療内容を語ってもらいたいね」(総合病院腫瘍内科医)
 東京五輪・パラリンピック組織委員会会長として存在感を示している森喜朗元首相は、7月に79歳の誕生日を迎えた。
 8月にはリオ五輪開会式に出席、当初は閉会式にも出席を予定していた。昨年肺がん手術を受けたことを公にしている高齢の森氏がなぜこれほど元気なのか。
 本誌は、森氏のがん治療の進行を知る関係者への取材から、免疫によりがんを抑制する新薬「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」の投与が、劇的な回復をもたらしたことを摑んだ――。
 森氏は総理退任後の’02年に前立腺がんの手術を受けた。その後10年以上前立腺がんの再発はなかったが、昨年肺がんが見つかり、3月23日に除去手術を受けたと明かした。3月30日の理事会では、
「実は左胸にがんがあって、完全に除去する手術を受けました。悪いものはとってしまえばいいんで、もう完璧だ」
 と自信たっぷりに話していた。しかし、自民党関係者によると、それからほどなくして抗ガン剤治療を始めたという。
「森さんは、昨年の秋口から治療を受けていました。再発が見つかり、プラチナ系の抗ガン剤治療を開始した。しかしこの抗ガン剤は強い吐き気や抜け毛など副作用も強いのが難点。あまりに副作用が強い場合は、投与を中止するほかない」
 事実、昨年10月にアスリート委員会に出席したときの森氏の体調は最悪だった。顔色は黄色がかり、丸坊主に近い短髪にメガネをかけ、報道陣を驚かせた。
「(新国立競技場や五輪エンブレム選定混乱の)責任とれというから、いっぺん坊主にした。それだけだ。オレががんか何かで死んだらいいと思ってるんだろ」
 と毒づいた。表情も暗く、実際森氏はこのころ死期を覚悟していたという。
新薬が効いた「幸運な患者」
 しかし、昨年12月にオプジーボが肺がん治療薬として保険適応になったことが転機となった。実はこの薬は、「夢の新薬」として肺がん患者に待望されていた。
「いままでの薬よりいい、という話が先行して、10月、11月ごろから待っていた患者さんも多くいました。プラチナ系の抗ガン剤の治療後に使用する二次治療として、2週間に1回1時間以上の時間をかけて点滴投与します。非常に高額ですが、通常の抗ガン剤で起きる副作用はほとんど出ないため、患者さんも歓迎しています。オプジーボの論文上の奏効率は2割ですが、実際の臨床現場では使い続けることができる人はそう多くない。2割いけばいいほうです」(広島大学病院呼吸器内科診療科長・服部登医師)
 しかし、森氏はその「幸運な2割」のひとりだった。今年3月下旬までは階段も上がれないほど体力が落ち、声が出ないため講演の依頼も断っていたが、5月以降は体調が急激に改善した。
「森さんは髪の量も増えて、声量も以前のように戻った。五輪組織委員会の事務所で多数の来客と面会し、分刻みで陳情をさばいている。ときには総理の携帯にも直接電話する。顔の黄ばみもなくなった」(自民党ベテラン秘書)
 オプジーボには一般的な抗ガン剤で起きる吐き気や倦怠感といったきつい副作用がないため、患者にとっては体力的に非常にラクだという。とはいえ、別の問題も指摘されている。
「患者の体重によって投与する量は違いますが、体重60㎏の人の場合、一回に約140万円、年間で約3500万円。85㎏ある森さんの場合、一回200万円近く。1ヵ月の医療費は400万円を超える」(がん専門病院の医師)
 あまりに高額なため、今後投与を受ける患者が急増した場合、国民皆保険の破綻さえ危惧されている。森氏の携帯電話に連絡し取材趣旨を告げたところ、
「電話での取材は一切お断りしてます」
 というひと言だったが、声には張りがあった。元総理を救ったのは最先端医療の力だった――。
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昨年10月、短髪、メガネ姿で登場した際は体調も最悪だった
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リオ五輪開幕前には「私はボランティアでやっている」と発言し、肺がんとの命がけの闘病を示唆していた
PHOTO:堀田 喬 共同通信社
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