連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第19回 投手永遠のテーマ「立ち上がり」
2016.10.01
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斉藤氏は「エースが投げる週頭の勝率が高く、カープを勢いづけた」と分析。その役を担ったのが野村だ
 投手にとって永遠のテーマと言っていい難題――それは「立ち上がり」です。ズバ抜けた資質を持つ日本ハムの大谷翔平(22)も、楽天のエース・則本昂大(たかひろ)(25)も、序盤での失点が実に多い。
 25年ぶりの優勝に貢献したカープの野村祐輔(27)は、立ち上がりを克服したことが活躍につながったと振り返っています。今季から1イニングで投げる球数を15球と想定。試合前にブルペンで15球ずつ、2回投げてからマウンドに上がる。「試合の初回は3イニングス目」と考えることによって、立ち上がりが良くなり、ここまで16勝(昨季は5勝)と見事に復活しました。
 これは黒田博樹さん(41)のアドバイスだったようですが、黒田さんほどの投手でも、やはり立ち上がりに難しさを感じ、工夫を凝らして試合に臨んでいるわけです。
 立ち上がりが難しいのは、「毎試合、同じコンディションでは投げられない」からです。長いペナントレースを戦ううち、肉体的にも精神的にも、疲労が蓄積されていく。万全な状態で投げられる機会なんて、年に数回ある程度。球場の違いや天候、気候なども影響してきます。
 それらを試合前のブルペンでなんとかアジャストしようと試みるのですが、ブルペンは狭く、お客さんもいない。何より、戦う打者がいない。実際のマウンドとはまったく状況が違います。緊張もしますし、ほとんどの投手が手探りで試合に入っていると思います。ブルペンで調子が良くても、試合のマウンドで思い通りに投げた球をヒットされれば、「あれ? 本当は調子悪いのかな」と不安がよぎり、リズムに乗っていけない。初回から持てる力を発揮することは、とても難しいのです。
 だからこそ僕は、普段の練習から120%を求めていました。ブルペンの投球練習ではストライクゾーンの四隅を狙う。キッチリ投げられても、投げた感触が良くなければやり直し。そして常に1番目にこだわってやっていました。投げる、走る、ウェイトトレーニングでも1球目、1本目、1回目を強く意識する。脳、体、心を「はじめを大事にする」ように習慣づけたのです。
 ホークスで一緒にやっていたときの杉内俊哉(35)は僕が知る数少ない立ち上がりの良い投手ですが、彼も「目一杯準備したから、どんな結果が出ても仕方ない」と口にしていました。だからこそ、「緊張はあまりしない」のだそうです。
 僕も同じです。練習で追い込んで、マウンドで「これで打たれたら、しゃあないわ」と開き直るのです。強気だと思わぬ副産物がある。相手打者がド真ん中の失投を見逃しでもしたら、「ラッキー!」「今日はボールが走っているぞ」と、ますます強気になれる。ノッていけるのです。
 エースとして安定して勝ち星をあげるには、自分のメンタルをコントロールする力が必要不可欠です。
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さいとう・かずみ/’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率.775。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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