スポーツは人間ドラマだ! 第114回 双葉山の69連勝に迫った白鵬に土 稀勢の里が見せた「執念の寄り切り」
2016.11.07
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’10年11月15日
大相撲
九州場所2日目
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稀勢の里は翌年の1月場所でも23連勝中の白鵬と激突。押し出しで破った。以降、白鵬の「天敵」に
「これが負けか……」
 ’10年11月15日、九州場所2日目。土俵下に転げ落ちた横綱は、実に297日ぶりの屈辱を嚙みしめていた。63個の白星を積み重ね、大横綱・双葉山の69連勝に挑んでいた白鵬(25=当時、以下同)は、稀勢の里(24)によって連勝記録を阻止された瞬間、脳裏にこの言葉がよぎった。
 ’07年5月の昇進以来、脂の乗り切っていた若き横綱は、4場所連続全勝優勝を果たして、もはや「死角なし」。ついに双葉山の大記録が塗り替えられるかと、大相撲ファンは固唾をのんで見守っていた。
 一方の稀勢の里は、それまで白鵬に11連敗を喫していたものの、直前の2場所では横綱を慌てさせる善戦で、手応えを摑んでいた。しかし、同時にこの2場所は連続で負け越して三役の座から滑り落ち、前頭筆頭として臨んだ一戦だった。
 立ち合い、白鵬は稀勢の里の左頬を張って差しにいくが、攻め込む相手を組み止めきれない。苦し紛れの張り手は空を切り、白鵬らしからぬバタバタした動きで一気に土俵際まで追い込まれる。そこで踏ん張って持ち直すも、勝ち急いだのか内掛けを繰り出し、バランスを崩した。その隙を稀勢の里は逃さず、一気に寄り切ったのだ。
 これは、いまは亡き師匠と摑んだ大金星だった。この日の朝、稀勢の里は師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)に秘策を伝授されていたと聞く。明け方まで白鵬の取組を分析した師匠は、愛弟子にこう伝えた。
「手を付いて立て。叩くな。引くな。追い詰めろ。前に倒せそうになっても起こすつもりで行け。そうすれば相手はムキになって攻めてくる。自信を持て。そして何があっても、何が起こっても謙虚に振る舞え」
 取組後、師匠の教えを守った稀勢の里は昂ぶる気持ちを抑えるように頬を紅潮させ、
「土俵際の逆転もあるし、最後まで勝てるとは思わなかった。勝因はあきらめなかったことと、(攻めを)休まなかったこと」
 と、淡々と答えた。
 しかし、この九州場所で賜杯を抱いたのはまたしても白鵬だった。その後も連続優勝し、史上最多タイの7連覇を達成。後日、「7連覇も、この時の連勝ストップがあってこそ」と白鵬は意外な言葉を口にした。
「本当に落ち込みましたよ。でもあの場所で優勝できて、負けてしまった心の穴が埋まったんです。あの双葉山関でさえ連勝が止まった時は3連敗している。もしあの場所で優勝していなかったら、その後の自分はどうなっていたのだろう、と思うんです」
 この大一番から、はや6年の月日が経った今年の九州場所。全盛期を過ぎ、休場明けで臨む白鵬と、いまだ綱取りが叶わない稀勢の里――。「因縁」の一番は、どちらに軍配が上がるのだろうか。
(相撲ライター・佐藤祥子)
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