連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第26回 幅61㎝のプレートをいかに使いこなすか
2016.11.19
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9月8日のオリックス戦でのソフトバンク・和田。プレートの一塁側の端に軸足をつけて投げている
 今季、セ、パ両リーグで最多勝を獲得した広島の野村祐輔とソフトバンクの和田毅。二人がタイトルを手にするにあたって大きな要因になったのが、「ピッチャーズプレートの立ち位置」の変更でした。
 僕は現役時代、プレートの三塁側から数㎝内側に入ったところに右足のつま先をかけて投げていました。22歳〜23歳ごろ、なかなか結果が出なくて「何かを変えてみよう」と真ん中や一塁側の端などに立ち位置を変えたのですが……視界の違いに戸惑い、結局、元に戻しました。ゴルフをする人はわかりやすいかもしれませんが、ティーグラウンドの右サイドに立つのと、左サイドに立つのとでは、ガラッと風景が変わりますよね。マウンドからの景色も見た目以上に角度がつきます。
 ただ、野村のように僕がシュート系の球を武器にする右投手であったら、変えていたと思います。野村は今季からプレートの立ち位置を三塁側から一塁側に変えました。右打者の内角にシュートを投げる場合、一塁側から投げたほうが「横の角度」がつく。より、懐(ふところ)に食い込む嫌なボールになる。立ち位置を変えたことで、昨季5勝から16勝と飛躍することができたのです。
 ソフトバンクの和田はシーズン途中にプレートの立ち位置を変えました。
 以前、ソフトバンクで活躍していたころは、プレートの一塁側から角度がついた真っ直ぐを右打者の懐に投げ込む「クロスファイア」を武器にしていました。左打者にも同じコースへの真っ直ぐとスライダーの出し入れで勝負していたのですが、それが一変。日本復帰後は三塁側に立って、ツーシームなど動くボールを投げるスタイルに変身していました。メジャーのバッターはギリギリまで引きつけて叩くスタイルが全盛。ボールを動かしたほうが有利です。しかも、左打者の懐に食い込んでいくツーシームは三塁側から投げたほうが角度がつく。メジャーに対応するためにピッチングと立ち位置を変えていたのです。
 開幕から2ヵ月、勝ち星こそついていましたが、しっくりきていなかったんでしょう。和田は6月1日の中日戦で5回5失点で敗戦投手になると、立ち位置を一塁側に変えました。すると従来の武器のクロスファイアが甦(よみがえ)り、横振り気味になっていたヒジの角度も以前の高さに戻った。そうすることによってチェンジアップの精度も上がり、安定感が増したのです。日本ではこちらのスタイルのほうが通用する――変わることを恐れない「対応力」はさすがやなと思いましたね。
 過去2年で2勝止まりだった阪神の岩貞祐太もプレートの立ち位置を一塁側から三塁側に変更した結果、制球力が上がって今季2ケタ勝利を挙げました。幅約61㎝の小さなプレートですが、使い方次第で投手は大きく変われるのです。
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さいとう・かずみ●’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率.775。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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