村田諒太「目指すはプロでも金」
2016.12.10
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 実は「日本最強」のネガティヴ・ボクサーというが
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昼すぎにはジムに現れ、若手に交じって3時間みっちり、練習。イチローが愛好する初動負荷トレーニングも取り入れるなど貪欲だ
 さっきのミット打ち、バチン、バチンってエエ音してましたよね。でも、エエ音させながら僕は「このパンチ、試合で使えるんかな? ここまでめいっぱい、打ち込む場面なんてあるやろか? あんなタイミングで相手は当たってくれるやろか?」と考えてしまうんです。
 ロンドン五輪の金メダルを手土産に、プロに転向。これまで11戦全勝8KOと順風満帆な村田諒太(30)。竹原慎二以来、二人目となるミドル級世界王者を有力視されているホープは、驚くほどネガティヴだった。’16年は3戦すべてKO勝利。なかでも7月、聖地・ラスベガスで行われた一戦では、元WBCアメリカ王者のタドニッパを1R1分52秒でKO。12月30日に有明コロシアムで行われるサンドバル戦は世界前哨戦と位置づけられている。
 今年1月のベガ戦の前、知人とキャッチボールをしているときに、「ボールがカーブしているよ」って言われたんです。「リリースのタイミングが遅いんかな」と思って少し早めてみたら、真っ直ぐシュッと行った。それが面白くて、パンチのリリースも早めてみたら、身体の回転と腕の回転が一致する感覚があって、パンチに体重が乗るようになった。スパーリングでバンバン、倒せるようになったんです。ただ……いいパンチを打てているのは確かで、少しは自信もつきましたけど、自信なんて脆(もろ)くも崩れ去りやすいもの。「これでイケる!」という確信はいまもないですね。僕は世界ランク3位(WBOとIBF)ですけど、チャンピオンとは死ぬほど差があります。
 中2でボクシングを始め、高校2年時に選抜、総体、国体の3冠を達成。大学でも全日本選手権を制した。急成長を遂(と)げた村田は『絶対に勝てる!』と自信満々で北京五輪を目指したが、アジア大会、世界選手権で惨敗。五輪出場を逃(のが)し、一度は現役を退いた。
 ネガティヴ――というか、怖がりなんでしょうね。「イケる!」と思って潰(つぶ)された時のショックて、大きいんです。エクスキューズがきかない分、傷つく。
 ロンドン五輪で金メダルを獲った時も、怖かった。金メダルを獲っただけで世間は僕に120点を与える。僕のこと、何も知らないだろうに「努力して日本のために金を獲った」と最高に評価されました。そうなると、後は減点されるしかないんです。それが怖かった。プロデビュー戦前、親父と電話で話した時、最初は子どもの話なんかをしていたのに、「試合したくない」みたいな流れになって、いつの間にか泣いていました。親父からは、こんなメールが届きました。
〈前に、息子がジャンプする動画を送ってくれただろう? あれと同じじゃないか。子どもは誰かに見てもらうためにジャンプしているんじゃなくて、自分が成長しているのが嬉しくてジャンプしているだけだろう?〉
 これで変わりましたね。「村田諒太らしく、KOで勝たなきゃ」などと、気負わないようにした。あまり考えすぎず、シンプルに自分のできることをやる。
 練習日誌をつけるのもやめました。日誌にとらわれて、フレキシブルに考えられなくなるから。
 べガス(7月のタドニッパ戦)の前だったか、元スーパーフライ級世界王者の飯田覚士(さとし)さんと目のトレーニングをしていて、面白いことに気づきました。日本で「集中する」というと、相手の顔を凝視するイメージですが、それだと力(りき)むだけで、死角も生まれる。ゆっくり呼吸して、リラックスした状態で相手全体を見たほうが、かえって素早く反応できるんです。
 世界選手権は獲れるのに五輪で勝てない。決定的なチャンスでゴールの枠すら、とらえられない。そんな選手は「ここで集中だ!」「絶対決める」と意識するあまり、力んでパフォーマンスが発揮できていないんだと思います。
 かくいう村田も、「集中」できたのは直近の2試合だけだという。ベガスで行われたタドニッパ戦では、こんな体験をしている。
 ゴングの後、相手がパチパチパチと打ってきたんで、「はいはいはい」と受け止め、「ややこしいヤツやなあ」と思いながら、なんとなくパンパン、トーンと打ったら、タドニッパがマットに沈んでいた。妙に冷静で、自分と対話しながら試合ができた。いわゆるゾーンですよね。極めていいパフォーマンスが発揮できる状態。
 次戦以降もゾーンを再現できるかどうかわかりませんが、ボクシングを通じて精神性を学べる楽しさをいま、味わっています。プロに来てよかったなと。
 僕の場合、「プロでも金」――世界を獲ることが目標です。怪物・ゴロフキンが頂点に君臨していますが、怖くはないですね。考えてみてください。会場にレフェリーとジャッジしかいなかったら、仮にやられても「やっぱり強かった」で終わり。観客がいて初めて、プレッシャーを感じる。それは「自分を失う怖さ」です。「村田、やられたな」と言われるかも、KOシーンを動画サイトにアップされるかも――という恐怖であって、ゴロフキンと戦うのが怖いわけじゃない。「言うは易し」ですが、そういうメンタルに近づきたい。自分で実験している感じですね。実際に世界戦が決まった時、どういう精神状態になるか。どんな発言をするのか。いまからちょっと楽しみです。
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日本人唯一のミドル級王者、竹原が世界クラスと絶賛するのが村田のパワー。くの字に曲がったサンドバッグがそのまま吹き飛びそうになるパンチ力は圧巻
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タドニッパはこの左ボディでダウン。右ストレートも一撃必殺
撮影/ジジ
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