スポーツは人間ドラマだ! 第120回 瞬間視聴率は紅白歌合戦超えの43% 曙vs.ボブ・サップ「超ヘビー級」なKOシーン
2016.12.19
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’03年12月31日
K-1プレミアム
Dynamite!!
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試合後、曙は「もう1回」と再戦を望んだが、実現したのは2015年の大晦日。サップの判定勝ちに終わった
「あの試合は"格闘技の神様のイタズラ"だと僕は思っています。相撲の王者が前のめりに倒れ込んだ。それを上からカメラが映し出す。大喜びする4万3560人の大観衆……。残酷だなぁ、と。あの光景は一つの象徴でした。あの試合を境にして、格闘技自体がまさに"前のめり"に崩れていったんです」
 ’03年の大晦日に行われた「元横綱」曙太郎(34=当時、以下同)と「ザ・ビースト」ことボブ・サップ(29)の"超ヘビー級対決。レフェリーを務めた角田信朗氏は、世紀の対決をこう振り返った。この一戦は格闘技イベントの黄金時代を象徴すると同時に、その後の凋落を予感させるものにもなった。
 試合は序盤、体重220㎏の曙が153㎏のサップに突進。相撲のぶちかましのように前に出て圧力を掛け、体重差を生かして一気にコーナーに押し込む。しかし、そこで手詰まりとなり、リング中央での打ち合いに引きずり込まれた。
「あれ(突進)は正解でした。むしろ最後まであのスタイルを貫くべきだったのに、途中からパンチを打とうとしてしまった。突き押しのようにして押していく形で攻めていれば、曙に勝機はあったんです」(角田氏=以下同)
 中盤以降、サップのローキックで動きを止められた曙は必死にパンチを繰り出すが、次第に防戦一方となる。
「慣れないパンチをもらって曙は下を向いてしまった。嫌がる素振りを見せたんです。じつは、サップは勝てないと思ったらすぐに諦めて戦意を喪失する選手。逆に、イケると思ったらどんどん攻めてくる。曙の姿を見て、サップが"その気"になってしまった」
 一度目のダウンはカウント9で立ち上がったが、もはや曙に試合を立て直す余力はなかった。1ラウンド終了間際の2分50秒過ぎ、サップの右ストレートをまともに浴びると、顔から突っ込むようにリングに崩れ落ちた。うつぶせのまま巨体はピクリとも動かない。この時、テレビの瞬間視聴率は『紅白歌合戦』を超える43%を記録していた。
「(攻め方を)いろいろ教わったが、全部忘れた。頭が真っ白になって……」
 日本中が注目した一戦を終えた曙は、試合を振り返りこうつぶやいている。横綱まで登り詰め引退してから3年。親方の座を投げ捨てた曙は、髪を金色に染め上げて格闘技界に殴り込みをかけたが、結果は無残なものに終わった。
 当時、K―1は総帥・石井和義正道会館館長の脱税問題でイメージに傷が付き、ピンチに陥っていた。その危機を救ったのがサップの活躍だった。技術的には未熟ながら、超人的な肉体を誇るサップ。そこに、わずか2ヵ月ほどボクシングの特訓を積んだ曙を対戦させるという、いわば"キワモノ"的なカードは驚異的な視聴率を叩き出したが、その反面、この試合をきっかけに純粋な格闘技ファンが離れていったのも事実だ。
「結果的に、あの試合が(格闘技界の)首を絞めたことになったんです」
 角田氏は厳しく指摘する。大晦日の格闘技イベントはいまも開催されているが、もはや当時の勢いはない。
(フリーライター・矢崎良一)
PHOTO:朝日新聞社/Getty Images
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