スポーツは人間ドラマだ! 第122回「神様」ジーコがボールに唾を吐いた理由
2017.01.09
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’94年1月16日
Jリーグチャンピオンシップ第2戦
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第1戦は右足のケガで欠場していた。この行為でジーコは4試合の出場停止処分。「日本の審判のレベルを向上させるためだった」と後に謝罪した
「日本ではチャンピオンになれないことがハッキリした。ブラジルでも審判が特定の人気チームに有利に笛を吹くことはある。しかし、日本のようにヴェルディ1チームに、なんてことはない」
 ’93年に開幕したJリーグ。その初代王者を決める「Jリーグチャンピオンシップ」で、日本のサッカー史に残る事件が起きた。「神様」とまで呼ばれたサッカー界の英雄・ジーコ(40=当時、以下同)が、ボールに向けて唾を吐きかけたのだ。試合を退場となった翌日も、ジーコは審判への不満を隠さなかった。
 チャンピオンシップは、1stステージを制した鹿島アントラーズと2ndステージの覇者・ヴェルディ川崎によって争われた。会場は2試合とも国立競技場。このシーズン、川崎は13試合を国立で行っており、ジーコは戦前「ヴェルディのホームだ」とクレームをつけていた。シーズン中から判定に不満を溜めていたジーコは、試合前の練習でチームメイトに、
「相手は(審判を含めた)14人だと思え」
 と檄を飛ばしていた。第1戦はヴェルディが2―0で勝利し、’94年1月16日の第2戦、アントラーズは1点をリードする。迎えた後半36分、ペナルティエリア付近で川崎のMF・パウロがパスを受け、鹿島DFが身体を入れて止めた。主審がPKを与えると、ジーコは先頭に立って猛然と抗議する。混乱のなか、キッカー三浦知良(26)がボールを置き、助走のために下がるのと入れかわるように、ジーコがボールに近づいていく。
「ボールを覗き込むような格好をするから、おかしいなと思った」(三浦)
 ジーコは顔を紅潮させ、ボールに向かって唾を吐きつけた。すでに警告を受けていたジーコは、レッドカードを掲げる審判を嘲(あざけ)るように拍手をしながらピッチを去った。5万3000人の観客は、何が起きたのかわからず静まり返っていた。
「主審は黒い服の下にヴェルディのユニホームを着ているんだ。主審も優勝トロフィーを掲げて喜べばいいんだよ」
 試合後も怒りの収まらないジーコは、ブラジル人記者に向かってこうまくしたてたという。翌日のスポーツ紙には、ジーコへの批判記事が並んだ。だが、サッカー評論家のセルジオ越後氏は、まったく違った見解を持っている。
「確かに行為自体は大人げなかったかもしれない。でも、勝負は何があっても勝たなきゃいけない、という執念が起こした行動です。むしろ世界では、あれを"プロらしさ"と言うんです。Jリーグによってプロ化したものの、『日本だけの感覚では世界に通用しない』ということをジーコは教えてくれたのだと思う。それがいろんな形で日本のサッカー界に、特にアントラーズに伝統として残っている。『絶対に譲るな。どんな形でも勝ちにこだわれ』という伝統としてね」
 ジーコは’94年の1stステージ後に現役を引退。’02〜’06年には日本代表監督を務めた。いまもアントラーズの精神的支柱として、熱い激励の言葉を送り続けている。(フリーライター・矢崎良一)
PHOTO:産経新聞社
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