スポーツは人間ドラマだ! 第125回 挑発にのったベッカム「痛恨のレッドカード」
2017.01.30
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’98年6月30日
W杯フランス大会
アルゼンチンvs.イングランド
「10人のライオンと一人の愚かな若者」と英紙が酷評
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ベッカムは’13年に現役引退、一方のシメオネはスペインリーグ優勝など監督として大成功を収めている
 イングランドとアルゼンチンの対戦は常に激戦になる。
 ’98年フランスワールドカップで、両者は決勝トーナメント1回戦で激突。アルゼンチンのエース・バティストゥータ(29=当時、以下同)がPKを決めると、イングランドの18歳、マイケル・オーウェンが巧みなトラップと驚異的なスピードを披露する圧巻のゴール。しかし、勝敗を分けたのはW杯初出場のデイビッド・ベッカム(23)が犯した「愚行」だった――。現地でテレビ解説を務めていた宮澤ミシェル氏が伝説の一戦を語る。
 初めて見たベッカムのプレーには魅了されました。ボール捌(さば)きが抜群で、難しいパスも簡単に通してしまう。うまいなぁ、と衝撃を受けたのを覚えています。
 試合は序盤から点の取り合いで、前半は2-2。イングランドの攻撃の起点となっていたベッカムは、挑発的とも言える激しいマークを受けて苛立っているように見えました。
 迎えた後半開始早々、アルゼンチンのディエゴ・シメオネ(28)が背後から体当たりするようにベッカムにぶつかり、二人はもつれて倒れ込んだんです。先に立ち上がったシメオネの左足を、うつ伏せに倒れたままのベッカムが右の踵(かかと)で蹴った。シメオネは派手に倒れ込みました。
 私は「頼む! イエローで済ませてくれ!」と祈っていたんですが……、主審はまずシメオネに対してイエローカードを提示。そして、報復行為のベッカムにレッドカードを掲げました。
「試合をつまらなくしやがって」と舌打ちしたい気持ちでしたが、シメオネのプレーに感心もしていました。本当に老獪(ろうかい)だった。ベッカムの一撃は踵が当たった程度の軽い接触。でも、あれもサッカーです。「おい若造。サッカーっていうのは、こんな戦い方もあるんだぜ」とベッカムに教えているかのようでした。
 一人少ないイングランドは必死に守り、PK戦に持ち込んだものの敗れました。ベッカムは「10人の勇敢なライオンと一人の愚かな若者」などと英国のメディアから強烈なバッシングを浴び続けます。
 実は、この試合でドクターを務めていた日本人医師の方から、「ドーピング検査室で、ベッカムはモニターを観ながら号泣していた」と後に伺いました。一連の報道に接するたびに心が痛みましたね。
 ベッカムはこの試合を振り返って、「選手としても、人間としても、とても難しいものだった。だけど、あの出来事が急速に僕を成熟させてくれたんだ」と語っている。そして、4年後の’02年日韓W杯で、アルゼンチンに雪辱を果たした。
(フリーライター・矢崎良一)
PHOTO:Getty Images
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