連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第37回 西武 牧田がボクシングに学んだ腕の振り
2017.02.11
LINEで送る

[singlemenu][ptitle]
image
かつて胸筋がジャマをして腕が遠回りした経験から、牧田はウエイトトレーニングをやめたという
 プロ野球の春季キャンプは中盤へ差し掛かり、投手の調整ピッチも徐々に上がってきました。そんな中、誰でも投球フォームで意識する大きなポイントがあります。それは腕を「身体の近くで振る」こと。レンジャーズのダルビッシュ有は「顔の横をヒジが通る感覚」と表現しています。
 遠心力を考えれば、身体から離れたところで腕を振ったほうが力強いボールを投げられます。ところが、それでは肩やヒジにかかる負担が増すうえ、制球しづらくなる。ダーツを思い描くとわかりやすいです。コントロールへの比重が極めて高いダーツでは、矢を持つ手を顔の前にセットして投げますよね。基本的に、腕や足は身体の近くで動かしたほうがスムーズに、的確に動かせるのです。ピッチングの場合、制球面だけでなく、球持ちも良くなります。
 腕を顔の近くで振るために、もっとも大切なのが身体の軸です。軸を安定させるため、僕は独自の練習をしていました。
 たとえば「高い遠投」。ただ遠くに投げるのではなく、できるだけ高く放るのです。ヒジが下がっていると、きれいな球筋で高く投げられないので、自然と腕は顔の近くを通るようになる。そのうえ、遠くに投げるとなると、軸がブレていてはどうにもならない。登板日の3~4日後にやっていたのですが、効果的な練習でした。
 普段は真っ直ぐ踏み出す左足を、少し一塁側にステップして投げる練習もしました。右投げの僕が左足を一塁側にステップすれば、ヒザ、腰、肩なども一塁側に開きやすくなる。身体が開くと力を入れにくくなる。開きやすい状態をなんとか我慢して力のこもったボールを投げるには、いつも以上に軸足に体重を残して、最後に地面を押し込まなければいけません。体幹や軸足への意識を身体に覚えさせるのです。
 打者のスイングの場合、バットが身体の近くを通っているかどうか、見た目にもわかりやすいですが、投手の腕の振りは感覚レベルの課題になります。WBCでの活躍も期待される西武の牧田和久は、マウンドのプレートの幅の中で腕を振る感覚で投げているそうです。力を入れたら、身体の近くを最短で腕を通すことができない。そう感じた牧田は、ボクシングのストレートや空手の瓦(かわら)割りを参考にして、リリースの瞬間だけ力を入れるようにしているといいます。力(りき)みは身体の開きにつながりやすいですし、最後に力を集約させるためにも、その過程でムダな力は使いたくないのでしょう。
 皆、頭ではわかっているのですが、実践するのは容易ではない。メンタルが関わってくるからです。シャドウピッチングはイメージ通りできるのに、相手打者がいるだけで「打たれたらどうしよう」などと考えてしまい、頭と身体の動きにズレが出てしまう投手が少なくない。身体はもちろん、心もうまく制御できないと、理想のフォームに近づくことはできないのです。
image
さいとう・かずみ●’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率.775。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
LINEで送る