連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 拡大版 第38回 特別対談 和田毅「下半身をいじめ抜く」
2017.02.18
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ホークスの新旧エース。「マウンドで何て雄たけびをあげていたかって? 『ありがとう』や!」(斉藤・左)、「それはない!」(和田)

斉藤和巳(以下、斉藤) 去年、ワッチ(和田毅の愛称)がメジャーリーグからホークスに復帰して、キャンプだったかな、投げている姿を見て感心したんよ。渡米前とフォームがほとんど変わってなかったから。メジャーに行くと向こうの硬いマウンドにアジャストするために、重心の高い、立ち投げに近いフォームに変えるピッチャーがほとんど。下半身への負担が大きいから仕方ないんやけど、ワッチは沈み込むような、重心の低いフォームのままだった。見た瞬間、隣にいた投手コーチに「これ、10から15勝は余裕で計算できるでしょう」って言うたからね。で、実際に15勝するんやから

和田毅(以下、和田) フォームを変えようと思ったことは一度もないですね。僕は年を重ねてからも下半身をしっかり使って投げられるよう、若いころから練習も柔軟トレーニングも限界ギリギリまでやってきた。だから、現在があるんだと思います。

斉藤 ワッチの真(ま)っ直(す)ぐは140㎞前後。かたや日本ハムの大谷翔平は160㎞を超えてくる。それでも空振り率はワッチのほうが上というデータがある。それはナゼか? ボールの回転数とか、いろいろ要因はあるけど、僕はワッチ独特の重心が低く、テイクバックが身体で隠れて球の出どころが見えづらいフォームが大きいと思う。

和田 大谷は真っ直ぐが速いイメージがあるから、真っ直ぐを狙われているというのはあると思います。あと、もしかしたら、大谷の160㎞は「160㎞通り来ている」のかもしれないですね。僕の真っ直ぐは140㎞前後なので、正直に140㎞のボールを投げたら、簡単に打たれてしまう。そこはやっぱり、フォームだったり、キレだったりで140㎞以上のボールに見せる努力をしないと、プロの世界では通用しないと思うので。

斉藤 ワッチは今年で36歳か。その年齢で、あそこまで下半身を使って投げられるっていうのはスゴいよ。下半身が使えているから、より打者の近くでリリースできるようになり、その分、バッターは差し込まれる。

和田 軸足で立った時に「大丈夫だ」と思えれば、あとは勝手に上半身がついてくる。しなりを使って投げるイメージです。それぐらい「下」は大事。和巳さんも振りかぶって軸足1本で立った時に、どこに重心があるのかを厳しくチェックしていましたよね?

斉藤 身長が190㎝あって、人より手足が長いから、バランスが崩れやすくてね。そういや、ワッチとランニング中に2時間ぐらい話し込んだことがあったよな。

和田 ファームの雁(がん)の巣(す)球場でしたかね。僕は体重移動しながら投げていたので、重心を残して投げる和巳さんが新鮮で。いろんな人が入れ替わりながらランニングするなか、和巳さんと僕だけ、喋(しゃべ)りながらずっと走り続けていましたよね。

斉藤 ワッチは唯一、野球の話ができる存在だった。身体の使い方とか、配球とか自分の考えを持っていたから。杉(杉内俊哉・現巨人)に聞いても「ピュッと投げるだけですよ」とか言うからね。一番印象的だったのが繊細さ。試合中にアンダーシャツを半袖から長袖に着替えているのを見て、「ワッチどうしたんや?」って聞いたら、「いや、なにかクセを盗まれている気がして」って。

和田 僕は和巳さんの投げざまというか、投げる姿に憧れていました。自分は淡々と投げるタイプなので、ガッツポーズとかできないんです。和巳さんは試合に入り込んで、ノーアウト満塁を三者三振で凌(しの)いで「よっしゃあ!」とチームを鼓舞する。「いつか自分もあんなふうに投げたい」とずっと思っていました。

斉藤 僕はね、試合に入り込むぐらい自分を追い込まないとワッチや杉、渚(新垣渚・前ヤクルトなど)ら松坂世代のエリートたちには勝たれへんと思ってたんですよ。試合前なんて誰とも喋らず、必死に集中していたのに杉は「行ってきま〜す」なんてノリでマウンドに向かうし、渚なんてヘッドホンで音楽を聴いてましたから。

和田 僕はそこまでリラックスしてないですよ! 試合用のユニフォームとアンダーシャツとソックスにマークをつけて、ウォーミングアップ用と使い分けていたくらいですから……。で、負けたら、違うのに替えるんです。見た目はまったく一緒だから、印をつけ忘れて「どっちが試合用だっけ?」と迷うこともありましたけど。

斉藤 僕は試合前に不安材料をバーッと並べていました。経験上あったこと、自分が思い描けるあらゆる状況を頭の中に並べて、こうなったらこう対処しようとシミュレーションをする。球場のトイレに籠(こも)って目をつぶり、相手チームの1番から9番打者をイメージして……。

和田 それって僕より細かくないですか?

斉藤 マウンド上でうろたえたくないから、すべてを「想定内」にしたいわけ。

和田 僕は逆です。自分の調整を一所懸命やる。ピンチを迎えたら「ちゃんと練習しているから、絶対抑えられる」と考える。フォアボールを出したら「次、抑えたらいいでしょ」、点を取られたら「ここから0点に抑えよう」と切り替えて、切り替えてやっていく。僕が和巳さんみたいに取り組めたら、下位打線に一発を浴びるようなチョンボはなくなるんでしょうけど……。

斉藤 そういうチョンボも想定すんねん。大差がついていて、ホームランを打たれてもいい場面とかあるやん? でも、残りのシーズン、そのバッターに苦手意識を持つようになったらイヤやな。じゃあ、全力は出さないまでも、しっかり投げようって。

和田 5-0で勝っていて、終盤7回を迎えるとしますよね。「別に1~2点取られても大丈夫じゃない?」って場面でも、和巳さんは絶対打たれなかった。フォアボールなんか出したら、ムチャクチャ怒ってましたよね、自分に。三振を取って抑えても、キャッチャーが構えたところからちょっと高めに行っただけなのに「ああ~! チッ!」って鬼の形相。7回無失点で終わっても「今日はアカン!」みたいな。

斉藤 「次、同じ失敗したらやられる」と言い聞かせてたんよ。試合が始まれば結果オーライでもいい。ただ、結果オーライを常にOKにしてしまうと、気が緩(ゆる)む。

和田 2~3試合なら気力を保てるかもしれないですけど、1年間は……。この差はかなりあると思います。和巳さんのシーズン15連勝、16連勝という記録は高い意識の積み重ねなんだなって。いまある自分の考え方に、先ほど伺(うかが)った試合前の準備をプラスして和巳さんに近づきたい。チームを鼓舞できる、「この人で負けたらしょうがない」と思ってもらえる投手になりたいですね。それがエースだと僕は思うので

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和田にとってピッチングは下半身がすべて。「リリースするまでの体重移動をすごく意識している」(斉藤)
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