CAR-T細胞 末期がん患者の家族が治療法・費用・効果を告白

アメリカで1回5000万円の治療を受けた家族の証言


CAR-T細胞 末期がん患者の家族が治療法・費用・効果を告白

麻紀さんは、現在、オプジーボとオーダーメイドがんワクチン(ネオアンチゲン療法)で治療中。写真は主治医の武田力医師


 米国で治療を受ければ1回5000万円という「CAR―T細胞療法」。超高額ながら、米国の治験では「難治性の急性リンパ性白血病」患者の8割、「難治性の悪性リンパ腫」の5割の患者からがん細胞が検出されなくなるという結果が報告されている。第1部で触れた通り、日本でもノバルティスファーマの「キムリア」の製造・販売が了承され、国内で治療が始まるのは間もなくだ。第2部では、一足早く米国で「CAR―T細胞療法」を受けた患者家族の"告白"を紹介しよう。


 インタビューに応じてくれたのは、難治性の悪性リンパ腫「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」で闘病中の西崎麻紀さん(48=仮名)の夫・健二さん(仮名=以下、「 」内はすべて本人)。


「妻にがんが見つかったのは8年前。急に頭が痛いと言うようになったんです。幸い痛みは数日で治まったのですが、念のためという思いで一緒に病院へ行きました。妻は閉所恐怖症で人間ドックでも頭部の検査だけはしていなかったので。すると、MRI検査で脳に異常が見つかった。画像には直径2.5㎝くらいの丸い影が写っていました。開頭手術を受け、腫瘍を調べた結果、ついた診断は『悪性リンパ腫』。全身のリンパ節やあらゆる臓器のどこにでも腫瘍ができる可能性がある血液のがんですが、妻の場合は、最初にできたのが頭(脳)だった。脳の悪性リンパ腫は、他の臓器へ転移することはないが、切除してもすぐに腫瘍ができてくるため手術は無効。繰り返し脳の中で再発してくる可能性があると言われました。妻は40代になったばかりだったので、まさかという思いでした」


再発の末に辿り着いた


 麻紀さんはすぐに抗がん剤の治療に入ったが効果は見られず。そこで放射線治療を追加したところ、一時的にがんは消えた。だが――。3年後、再び脳に新たな2㎝の腫瘍が見つかったのだ。


「再発と言われ、すぐ抗がん剤治療を行ったのですが、効果はありませんでした。妻はまだ若いですし、頭に何度も放射線を当てることには抵抗がありました。それで、他に治療法がないかと医学雑誌や論文、インターネットから情報を集めたんです。その結果、オプジーボなどの免疫治療を組み合わせ、放射線治療の回数を抑えながら命をつないできたんです」


 健二さんが「CAR―T細胞療法」を知ったのも、脳に4度目の再発が見つかり、治療法を模索する中でのことだった。米国では一部の白血病や悪性リンパ腫を対象に、さまざまな「CAR―T細胞療法」の治験が行われている。健二さんは米国での臨床試験をインターネットで探し、治験の参加希望を出したという。


「幸い、その頃、日本でもイブルチニブという新薬の治験に参加できることになりました。でも投与後にアナフィラキシーショックが出てしまい、ドクターストップがかかったんです。治験はそこで中止。妻の頭には腫瘍が複数個あり、徐々に大きくなってきていたので、突然希望を絶たれて、焦りが募る一方でした。ちょうどそんな矢先に、米国で『CAR―T細胞療法の治験に参加できる』という吉報が届いたんです」


 知らせを受けて夫妻が向かったのは、米国カリフォルニア州の「シティ・オブ・ホープ」。米国でCAR―T細胞療法の治験施設のひとつとして指定されている総合がんセンターだ。


「病院はロサンゼルスから車で40分くらいの場所にありました。ただ、この療法はいきなり受けられるようなものではありません。この時は投与するCAR―T細胞を作る準備だけ。妻の血液から治療に必要なリンパ球を抜き出し、残りの血液は体内に戻すという『成分採血』を受けることが目的でした。約1週間の検査入院を終えて一度帰国したんです」


 採取された麻紀さんのリンパ球は病院から細胞培養の専門機関へ運ばれ、CAR―T細胞が作成される。できあがるのは約2ヵ月後。


「CAR―T細胞ができるのを日本で待っている間も、妻のがんは大きくなっていきました。以前は効果があったオプジーボも効かず、主治医から『このまま2ヵ月待つのは危険』と判断され、4回目の放射線治療を受けたんです。放射線治療の後、免疫療法を受けると、高い治療効果が期待できるというデータも出ていたので、気持ちを奮い立たせました。放射線を当てて2ヵ月後には腫瘍全体のボリュームが半分くらいになっていました。画像で見ると、一番大きな腫瘍で直径3〜4㎝くらい。肉眼で確認できる腫瘍も5〜6個だったと思います」


 その後、米国からCAR―T細胞が完成したという一報があり、夫妻は再びロスへ飛んだ。CAR―T細胞療法は、①抗がん剤の点滴投与、②それから48時間後にCAR―T細胞の点滴投与という順番で行われる。


「最初に抗がん剤を点滴したのは、体内のリンパ球の数を減らすためです。リンパ球といっても、そのタイプはさまざま。体内に過剰な免疫反応を抑えるリンパ球がいると、CAR―T細胞の働きをブロックしてしまう可能性があるんです。それを防ぐため、抗がん剤の点滴が必要になる。CAR―T細胞の投与前、看護師さんから『これは完治を目指す治療です』と言われたことも希望になりました」


 投与から数日後、麻紀さんは約1週間にわたって38度の高熱が続いたが、それ以外の副作用は出なかったという。治療の効果を確認するMRI検査では、脳に残っていた腫瘍は小さくなっていた。


「でも、よろこんでばかりはいられなかった。これまで腫瘍があった場所とは違う位置に腫瘍らしき影が写っていたんです。大きさは4㎝×1.5㎝ほど。免疫療法の治療後によくある、一時的に腫瘍状に見えるものが出現する症状なのか、腫瘍が再発したのか。専門家の間でも意見が割れたんです。帰国後、さらに詳細な検査を受けたら、この影は悪性腫瘍ではないかと判断された。それで、放射線治療を受けることにしたんです」


 現在、麻紀さんは放射線治療と併せて、大阪がん免疫化学療法クリニック(写真)にてオプジーボとオーダーメイドがんワクチンを開始している。


「妻は治験でCAR―T細胞療法を受けられたので、1回5000万円以上といわれている治療の薬代はかかりませんでした。それでも、2度にわたる渡航費や検査代、1ヵ月間の入院費、私の滞在費などを合わせると、アメリカへCAR―T細胞療法を受けに行っただけで3000万円以上はかかったことになります」


 1回5000万円の超高額治療、CAR―T細胞。日本国内でも、この治療法がスタートし、新たながんとの戦いが始まろうとしている。


CAR-T細胞 末期がん患者の家族が治療法・費用・効果を告白

現在、麻紀さんが通う大阪がん免疫化学療法クリニック。北海道から沖縄まで、さまざまな患者が相談に訪れる


PHOTO:浜村菜月


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