角幡唯介 探検から帰国して感じた違和感「新型コロナ」困惑と憂鬱

グリーンランド➡カナダ 極北の犬ぞり行の最中に世界が激変していた


角幡唯介 探検から帰国して感じた違和感「新型コロナ」困惑と憂鬱

自宅からほど近い湘南の観光地にて。マスク着用率は7割ほどか。素顔の角幡も「一応マスク持っていますよ」


 探検家の角幡唯介(かくはたゆうすけ)(44)が日本を離れ、グリーンランド最北の町・シオラパルクに到着したのは1月中旬。そこから氷河や海峡を横断してカナダに、そして北極海へと続く長距離単独犬ぞり行に挑む計画だった。だが、角幡が極地の氷に包まれている間に、世界は「新型コロナ」によって一変する……。帰国して2週間の自宅待機が終了した直後、「浦島太郎になった気分」という角幡がその胸中を明かした。


 シオラパルクの町に入って、探検の準備をしているうち、3月に入ると村人との会話でもコロナの話題が多くなりました。「デンマークとの定期便が飛ばなくなる」「フランスから来るはずだった取材がとりやめになった」とかね。僕が犬ぞり行に出発する前日には、村人が他の集落に行くことが禁止された。その後は、雑貨店のレジで2mの距離(ソーシャルディスタンス)をとらされたそうです。村民30人しかいないのに。


「なんでお前、世界中がこんな感じになってるのに、探検なんか行くわけ?」っていう雰囲気は感じました。だけど、なんというか、世界の人たちが感じている恐怖とか事態のヤバさが、僕にはまったくわからなかった。関心もなかったし。


 3月19日に12頭の犬と出発しました。氷河と氷床を越え、3月25日に日本にいる妻に生存連絡の衛星電話をかけたんです。そうしたら「カナダから入国許可取り消しの連絡があった」と教えられた。


 電話口の妻の口ぶりっていうか、切迫感は半端なかった。「(許可取り消しを破ってカナダに)行ったら、もうその話は絶対書けない。そんなことを今やっているのがバレたら、世間から袋叩きにされかねない」って。そんなにすごいことになってるのか、と驚き、2日後、カナダ行きを断念することを伝えました。


 妻の里子さんが電話口で感じたのは、「この人は全然わかってない」という温度差だった。世の中から隔絶されたところにいる夫に、なんとか世界が直面する事情を伝えないと、と懸命だったという。


 54日間、誰とも会わずに犬ぞり行をしていて、定期連絡した時には「そっちはどう?」と聞いていた。だって僕の旅より、日本のほうが変化がすごいから(笑)。


 特に「自粛警察」の話を聞いた時には狼狽(ろうばい)しました。『北斗の拳』の登場人物みたいな連中が街をのし歩いて、自粛しない人間を狩るっていう風景が脳内に広がりましたね。「俺、そんなとこに帰りたくない!」って勝手に思ってましたよ。


 実は、僕は3.11の時も北極圏を歩いていて日本にいなかったんです。


 震災発生を知った時に感じたのは、一言でいうと「罪悪感」でした。その時の僕は北極探検で全滅したフランクリン隊の跡をたどっていたんですが、「そんな昔の死者よりも、今、すごい地震が日本を襲っているじゃないか。生死をテーマにするのなら、そっちにリアルな〝生〟と〝死〟があるんじゃないか?」と思った。帰国すべきでは、とも考えたし、実際に探検行を終えて日本に帰った後には被災地をかなり回りました。それでも、〝取り残され感〟は大きかった。


 それに比べると、今回は帰ろうとも思わなかったし、むしろ「帰ったら、新型コロナのことを知らなくちゃいけないんだろうなぁ」と気が重くなった。


 帰国後、周囲の風景に違和感を感じることはあります。たとえば山をランニングしていて、マスクをしている人とすれ違う。「誰もいない山の中でマスクって、どういう意味があるんだろう?」と思うけれど、僕はそれを言える立場にないんですよ。皆、買い占めだったり自粛であったりのプロセスを経て、自分自身でたどり着いた結論としてマスクをしている。


 自分だけが世界で起こっていたことを知らないって、こんなに憂鬱なんだな、と痛感しています。


角幡唯介 探検から帰国して感じた違和感「新型コロナ」困惑と憂鬱

シオラパルク近くの雪原でそりを引く犬たちと。「犬たちと場数を踏んできたので来年も何とか行きたいのですが」


PHOTO:山崎哲秀(シオラパルク) 濱﨑慎治


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