腹式呼吸に頼るのは間違い! 快眠できる良い「呼吸法」とは?

ポイントは「吸う」より「吐く」にあった


前編『呼吸生理学の権威が解説! 「呼吸」で夢はコントロールできる!?』では、呼吸によって感情が影響されるメカニズムを、呼吸生理学の権威・本間生夫氏に紐解いてもらった。呼吸を改善できれば、感情のコントロールや良い夢を見ることも不可能ではないのだ。

後編では、その「良い呼吸法」について紹介していく。


腹式呼吸に頼るのは間違い! 快眠できる良い「呼吸法」とは?

ほんま・いくお/専門は呼吸神経生理学。東京慈恵会医科大学卒業。昭和大学医学部生理学教室教授、同大名誉教授などを経て、現在は東京有明医療大学の学長を務める。著書に『呼吸を変えるだけで健康になる 5分間シクソトロピーストレッチのすすめ』(講談社)、『すべての不調は呼吸が原因』(幻冬舎)など


呼吸体操で心を癒す震災で被災した子どもたち


「この子たちの心は、震災から1年を過ぎてもなお回復していない。心の底には依然として、拭いきれない不安やダメージが残っており、自分ではどうしようもない憂鬱を抱えて生きている」(本間氏、以下同)


東日本大震災の1年後、呼吸体操の指導のために岩手県のある小学校を訪れた本間生夫氏(東京有明医療大学学長)は息をのんだ。子どもたちは皆、表面上は明るく、普通に振る舞っていたが、呼吸を調べてみるとその多くが、浅く、速いことが分った。


浅く、速い呼吸は、感情の不安定さを示すバロメーターだ。


「呼吸と感情とは表裏一体であり。強い不安やストレスがあると、てきめんに呼吸が悪くなります。子どもたちは一見元気でしたが、話を聞いてみると、イライラすることがある、眠れないなど、その多くが心身の不調を訴えていました。明るい笑顔は、本当の笑顔ではなかったんです」


本間氏は自ら考案した、歌いながら楽しく簡単に行える呼吸体操「ラッタッタ体操」を伝授し、効果を調べた。


「体操を続けて、深くゆっくりした呼吸リズムを身につけた子どもたちは、心身の不調を訴える割合が格段に少なくなっていました。呼吸には、人間を回復させる大いなる力が潜んでいると、改めて確信しました」


人間は呼吸をしないと生きていけない。呼吸が弱まれば、たちまち衰え、呼吸が止まれば、文字通り息絶える。ただ、逆に考えれば、呼吸を強化して、しっかりと整えれば、心が安らぎ、体の不調や不眠の問題も改善する。


現代人の一大関心事である睡眠の質も、呼吸次第で高まるに違いない。良い夢を見て、ぐっすり眠れるようになる「良い呼吸」のコツを本間氏に教わった。


これまでの「良い呼吸」は間違いだらけ


「良い呼吸のコツを伝授するにしても、呼吸体操についてお教えするにしても、まず知っておいていただきたいのは、どういう息の出し入れが『良い呼吸』で、どういう息の出し入れが『悪い呼吸』なのか、ということです」


本間氏によると、我々の多くは呼吸について、大きな思い違いをしているという。


たとえば「酸素」について。酸素をたくさん吸うほど、呼吸が楽になるようなイメージがあるが、違うらしい。


「酸素の取り過ぎはむしろ、体にとって毒になります。老化の原因物質といわれる『活性酸素』が良い例です。また、我々の体は非常によくできているので、自然な状態では、意識していつもより多く酸素を吸ったとしても、ちょうど良い量しか補給されないよう調整機能が働きます。


つまり酸素は、多過ぎず、少な過ぎず、必要なだけの量を取り込んで活用して行けばいい。呼吸機能のためには、適度に酸素をとりつつ、適度に運動や活動をするのがベストです」


反対に、我々のイメージのなかでは、「体から排出されるゴミのような物質」に過ぎない「二酸化炭素」は、むしろ、「絶対になくてはならない」大切な存在で、もっと重要視されるべきだと本間氏は強調する。


「二酸化炭素は、我々の体内の『酸性/アルカリ性』のバランスを保つ調整役です。理想のpHは7.4の弱アルカリ。人間の体は、ほんのちょっと酸性に傾き過ぎてもアルカリ性に傾き過ぎても、不調や病気などのトラブルが起きるほど、繊細です。この微妙な調節は、二酸化炭素なしにはできません」


呼吸法についても、なんとなく、胸式呼吸より腹式呼吸のほうが体に良いようなイメージがあるが、そうでもないらしい。


「胸式呼吸には『浅くて速い呼吸』のイメージがあり、しっかり呼吸するなら腹式呼吸にするべきと思っている方が多いと思いますが、違います。


そもそも呼吸は、肺の周囲の呼吸筋と肺の下側にある横隔膜が共同で行っています。胸がメインエンジンだとすれば、お腹の横隔膜はサブエンジン。ゆえに呼吸機能の強化には、メインエンジンの胸式呼吸を鍛えた方がいい。呼吸の基本は胸ですから。呼吸の力をちゃんとつけるためには、胸式呼吸のトレーニングをするべきです」


胸式呼吸で肺のまわりの呼吸筋をしっかり鍛え、酸素と二酸化炭素は多過ぎず、少な過ぎず、特に意識せずともゆっくりと、安定したリズムで、吸いこんだ空気はできるだけ肺に残さず、吐き切るようにするのが、本間氏お勧めの「良い呼吸」なのである。



腹式呼吸に頼るのは間違い! 快眠できる良い「呼吸法」とは?

快眠は良い呼吸によって実現できるのだ Photo:アフロ


よい姿勢と香りで良い夢をみよう


さて、「良い呼吸」を体得するために、本間氏は独自の呼吸体操を考案し、普及活動を行っているが、特に体操しなくとも、以下の5点を日常生活の中で実践すれば、自然と良い呼吸ができるようになって心も安らぐという。


①胸を張り、背筋を伸ばして姿勢をよくする

②呼吸筋を柔らかくするストレッチを行う

③長く声を出したり、声を出して歌ったりする

④息を吐ききるトレーニングをする

⑤有酸素運動・持久運動をする


「姿勢は大事です。背中を丸めたネコ背姿勢をしていると胸郭の広がる範囲が狭まり呼吸筋を十分に使うことができません。この状態が続くと、呼吸が浅くなり、呼吸機能が低下します。背筋を伸ばして、胸を張って、有酸素運動をするだけでも、呼吸はずいぶん鍛えられます。


有酸素運動はウォーキング、ジョギング、水泳、エアロビクス、サイクリング、なんでもかまいませんが、手軽で続けやすいものがいいですね」


声を出したり歌ったりは、もちろんカラオケでもOKだ。


「気持ちを安定させて、良い夢をみられるようにしたいなら、香りを利用するのもお勧めです。安眠にはラベンダーが良いとか言われますが、特にこだわる必要はありません。香りと呼吸の関係を調べると、人間は、自分の好きな香りを嗅ぐと、呼吸も安定することが分っています。つまり、呼吸がゆっくりと落ち着くのが、自分にとっての良い香りであり、良い呼吸をもたらしてくれる香りです」


どうか良い姿勢、適度な運動、良い香りで、良い呼吸と良い夢を手に入れてほしい。



取材・文:木原洋美

撮影:西﨑進也

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