代表落選がニュースになる男 パナ山沢拓也が切り拓く未来


代表落選がニュースになる男 パナ山沢拓也が切り拓く未来

 パナソニックはトップリーグ第5節を終えて全勝。山沢は、正確なキックやパスでチームの司令塔となっている

 山沢拓也(24・パナソニック)の日本代表落選が話題となっている。


1年後のワールドカップ日本大会に向けたワールドカップトレーニングスコッドにその名がなく、10月1日に発表された今秋の代表ツアーメンバーからも山沢の名前は漏れていた。かねてから将来性が買われており、直近の日本最高峰トップリーグで圧巻のプレーを連発していることから、この選考結果が議論を呼んでいる。


身長176センチ、体重81キロの山沢が本格的に競技を始めたのは、兄の一人もプレーした深谷高ラグビー部に入ってからだ。熊谷東中時代もラグビー部に在籍していたが、主に追っていたのは丸い球だった。地元のクマガヤSCの有力選手として、サッカーの強豪校からも誘われていた。


 この時、深谷高ラグビー部で監督をしていた横田典之(現熊谷高監督)は、直筆の手紙を送り入部を決意させた山沢を「走り切れるスタンドオフ」と評する。司令塔の役割を担うスタンドオフとしてパス、キャッチ、キックなどの技術に長ける山沢は、タックルをかわす身軽さや防御網を抜け出した後の速さという「走り切れる」ツールを持っていた。


2012年には、深谷高3年ながら日本代表候補合宿に呼ばれた。筑波大入り後は左膝など度重なる怪我に苦しんだが、2015年にワールドカップで3勝したエディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチは、本来ならこの才能をもっと継続的に招集したかったと話していた。


2016年、故障が癒えた山沢は、筑波大4年ながらパナソニックの一員として国内最高峰トップリーグに参戦。史上初の大学生トップリーガーとなった。ところが所属がパナソニックのみとなった2017年は、怪我や元オーストラリア代表のベリック・バーンズとの定位置争いに苦しんだ。2016年秋に発足した新体制の日本代表には召集こそされたが、ジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチにはあまり認められずにいる。 

 

テストマッチ(代表戦)デビューを果たしたのは2017年4月30日、東京の秩父宮ラグビー場での韓国代表戦だ。途中出場して迎えた後半33分ごろに見事な突破を披露したが、カバーに入った選手のタックルで落球。「トライを取りに行きた過ぎたところがあった。学ぶべきはチームファーストというところ」とジョセフに断じられた。


捲土重来を期した今季のトップリーグでは、自陣ゴール前からの大きな突破と繊細なキックパスとの合わせ技でトライを演出。また、防御の背後へパントキックを蹴って自ら捕球する動きを2度繰り返してフィニッシュを決めたりと、スタジアムの空気を一変させ続ける。何より部内では、従来以上に「チームのための状況判断」ができるようになったと目されている。それでも、評価者の見る目は変わらなかった。


「山沢も、ジャパンファミリーの一員です。アジアラグビーチャンピオンシップ(2017年の韓国代表戦など)やその年の秋のツアー(追加招集された)でも経験を積ませました。重要な選手だと捉えています」


 10月1日、都内で会見したジョセフはこう言いつつも、「他の選手の能力が上だと判断した」と話した。


確かにスタンドオフを技術者ではなく意思決定者と定義すれば、ワールドカップ経験者で現代表レギュラーの田村優に一日の長がある。プレー中の周りに絶え間なく指示を出せる資質は、試合中の田村を望遠鏡で覗けば一目瞭然だ。


ちなみに現スコッドのスタンドオフには他に、山沢と同じパナソニックで別ポジションを務める松田力也が入る。「田村は経験が豊富で、松田もワラビーズ戦(昨秋のオーストラリア代表戦)に出ている。より多くの時間を過ごしてきました」とジョセフ。帝京大時代にスタンドオフとして大学選手権優勝を経験した松田から、意思決定者としての資質を見抜いているのだろう。


世の中には、優れた技術者を意思決定者に育てる訓練を施すボスもいれば、意思決定者としての能力は各自で身に付けておくべきとするボスもいる。もし仮にジョセフが後者であれば、ジョーンズのような決断をしないのは自然かもしれない。現代表主力格の証言によれば、初期のジョセフ体制は競技力の根幹を支えるフィジカル強化もどちらかというと「選手任せ」。その傾向は、2017年6月のツアーでアイルランド代表に連敗するまで続いた。


とにかく、ジョセフにはジョセフの理念がある。ジョセフが自分の理念をより詳しく説明する必要があるとしても、選手選考がボスの理念によってなされること自体は健全ではある。今秋に戦う相手のひとつがオールブラックスこと世界ランク1位のニュージーランド代表であるのを踏まえ、ジョセフはこう続けた。


「山沢はいいパフォーマンスをトップリーグ『で』見せていますが、トップリーグとオールブラックスとではレベルの差があります。10番(スタンドオフ)の育成には時間がかかる。山沢のような若い選手にいきなりこのような高いレベルの試合をぶつけることは、彼の成長にとってもあまりよくない。いままで私も本当に色々な10番を指導してきましたが、本当に花が咲くのは20代中盤からです」


代表落選がニュースになる男 パナ山沢拓也が切り拓く未来

現在までキャップ数は3。来年のW杯日本大会で山沢の姿を見られるかは、今後の彼の活躍次第

 2014年からパナソニックを率いるロビー・ディーンズは、過去にクルセイダーズを率いてスーパーラグビーを5度も制し、2008年からの6年間はオーストラリア代表初の外国人監督として手腕を発揮。一時はジョーンズの次の日本代表指揮官候補と見られていた。現代表に定着していない山沢について、こう意見を述べる。


「ナショナルチームのコーチ陣には自分たちのやりたいラグビーがあり、それに合った選手を選ぶのだろうと思います。彼がいいパフォーマンスをすることで日本に層の厚みができていることは素晴らしいことではないでしょうか」


 24歳の山沢の代表戦出場歴はわずか3回。安易な過大評価は禁物だろう。しかし国際的指導者のディーンズは、ゴールキックの居残り練習をずっと続けられる山沢をこうも認めるのだ。


「大切なことは、『もし選ばれたら』『いつ選ばれるか』ではなく、選ばれた時にしっかりとパフォーマンスができるよう準備すること。いま彼はそれをおこなっていると思います。その時が来たら、彼はきっといいパフォーマンスをしてくれると私は信じています」


 当の本人は9月22日、秩父宮でのヤマハ戦で自陣深い位置から4度のドリブルで敵陣ゴール前に迫ってトライをアシスト。チームを開幕4連勝に導いていた。その直後に設けられた取材エリアで、代表入りへの課題をこう語る。


「代表選手に選ばれなかった理由は何となくわかっているので、変わらずやっていこうという感じです。ゲームでうまくいく時もあればうまくいかない時もある。その波の幅を狭めていきたい。色んなシチュエーションに対する引き出しを持っておかないと、テストマッチという大きな舞台ではまだまだやっていけない。そういうところは、色んな試合を経験して学んでいきたいです」


 ナショナルチームに加われないことがニュースのコンテンツになるアスリートは、希少かつ貴重だ。もちろん、当事者がそれを望んでいるわけではなかろう。信じた道を着実に歩み、いつかはボスの見る目を変えるに違いない。


取材・文:向風見也

写真:アフロ



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