認知症から逃げるには週に3回カレーを食べよう

日本一のドクター・遠藤英俊医師に密着インタビュー&「予防食」リスト付

取材・構成 青木直美(医療ジャーナリスト)


認知症から逃げるには週に3回カレーを食べよう

遠藤医師は、病院の老年内科部長と長寿医療研修センター長を兼務。老年内科は高齢者を総合的に診療する内科だ


 愛知県大府(おおぶ)市にある国立長寿医療研究センター。筆者が日本の認知症治療を牽引する同センターの老年内科部長・遠藤英俊医師(64)の自室に入ると、整然とした部屋の中にレトルトカレーがズラリと並ぶ専用ラックが。食べ終わった空き箱も、未開封のものと一緒に保管されている(2枚目写真)。認知症研究のトップドクターとカレー。一見すると、まるで無関係のような組み合わせだが――。


「認知症の中で最も患者数が多いアルツハイマー病は、脳の神経細胞の中に特殊なゴミが溜まることで発症します。カレーなどに入れるターメリックというスパイスに含まれる『クルクミン』にはそのゴミを溜まりにくくする作用があります。’04年に金沢大学の研究で発見され、マウスの実験でもその効果が証明されている。『カレーをよく食べるインドでは、認知症の人が少ない』という論文も出てきているんです。もちろん、私も週に2~3回は昼食にレトルトカレーをチンして食べています」


 冒頭の遠藤医師は、こう語る。同氏は附属病院の老年内科で認知症患者を診る一方で、施設内の長寿医療研修センターでは「認知症サポート医」を養成している第一人者。国内だけでなく、モスクワやタイなどからの依頼を受けて現地に赴き、認知症の啓蒙や介護制度の相談・整備に尽力しているパイオニアだ。


 現在、日本国内での65歳以上の認知症患者数は460万人を突破(’12年の厚生労働省調査)。’25年には、実に700万人にのぼると見られ、まさに"国民病"となっている。認知症はここ数年、「根治薬」が登場するのではないか、と言われ続けてきた。だが、世界中の期待とは裏腹に、海外の大手製薬会社主導の治験はことごとく頓挫。現在でも、特効薬と呼べる治療薬は誕生していない。


 そんな状況の中で、今、最先端の研究現場では、認知症は予防こそが最重要だという考えが広がってきている。遠藤医師が続ける(以下、「 」内はすべて本人)。


「検査の精度が上がり、近年では認知症予備軍といわれる『MCI(軽度認知障害)』の診断もできるようになりました。MCIの患者数は、全国で約400万人に及ぶ。うち約50%は5年以内に認知症を発症することが分かっています。私たちは、いかにこの半数の人たちの発症を遅らせることができるか、そもそも認知症を発症させないためにはどうすればいいか、という研究も行っています。実は、40代からの過ごし方で、認知症を予防できる可能性が出てきたんです」


 その予防策のひとつが、特定の食品から有効な成分を摂取する、というものだ。


「認知症の新薬開発が難航していることで、何とか食品によって認知症を予防できないかという方向に舵(かじ)が切られ、世界中で研究が盛んに行われるようになっています。もともと、『レミニール』など、既存の認知症治療薬は、花の球根エキスから作られています。どのような食品が認知症の予防に有効かが模索されている中で、最近、新たに注目されているのが『クルクミン』なんです」


 すでに気づいた人もいるのではないだろうか。ターメリックの和名は「ウコン」。二日酔い対策にウコンを日常的に飲んでいる人は、知らず知らずのうちに認知症の予防を兼ねていたことになる。さらに、カレーでクルクミンを摂ることで、より予防効果が望めるというのだ。


「クルクミンは油と一緒に摂ることで吸収率が高まります。カレーが苦手な人は少ないですし、どんなカレーにもターメリックは必ず入っているので、外食でもレトルトでも、食事から手軽にクルクミンを摂取することができる。カレーは理想的な認知症の予防食なんです。レトルトを選ぶ場合は、乳製品や大豆も認知症の発症リスクを下げるというデータが出ているため、チーズやヨーグルトが使われているカレーにすれば、クルクミンとの相乗効果も期待できます。家で作る時も、カレーの中に乳製品や大豆を入れるといいですね。市販のカレー粉にはターメリックがすでにブレンドされていますが、そこにターメリックの粉を小さじ1杯程度足してもいいかもしれません」


 乳製品に関しては国立長寿医療研究センターが’97年から行っている研究で、一日当たりの乳製品摂取量が128g増えると、認知症の発症リスクが2割減るという結果が出ている。さらに、「ただカレーを食べるだけではもったいない」と遠藤医師は言う。


「認知症の予防には、同時に『頭を使う』ことがポイントなんです。そうすると、脳の神経細胞の突起が増えて神経ネットワークが広がります。人とコミュニケーションを取る時は頭を使っていますから、会話を楽しみながら食べる。一人で食べる時は、仕事の企画を考えたり、旅行の計画を練ったりするのもいいでしょう。私は病院でカレーを食べる時は、論文を読むか、原稿の内容を考えています」


 ただし、いくら予防効果があるといっても、度を越えたクルクミンの大量摂取には気をつけたい。


「クルクミンの過剰摂取は、肝障害を起こす可能性もあります。たとえ身体に良いとされる食品でも、摂りすぎれば毒にもなります。特にウコンを日常的に飲んでいる人や、脂肪肝や肝機能障害がある人は量や回数を控えてください。肝臓に問題のない人は、カレーを1日おきに食べるくらいでちょうどいい。だから僕は週2~3回なんです(笑)」


 さらに、認知症を予防する、もうひとつの注目成分が「ノビレチン」だ。もともと温州みかんやポンカンなどの柑橘類は認知症によいと言われていたが、なかでもシークヮーサーにはノビレチンが突出して多く含まれている。


「ノビレチンは、肥満や花粉症などに効果が期待されている成分ですが、最近の研究から認知症の予防効果があることも判明し、改めて注目されています。神経細胞の活性化による記憶障害の改善作用や、アルツハイマー病の原因となる脳に溜まるゴミを抑制する作用があることが分かってきました。シークヮーサーの果肉を絞ったジュースも良いのですが、皮には果実の30倍以上のノビレチンが含まれているので、皮ごと絞ったり、マーマレードで食べるほうが多く摂取できます」


 認知症は、高齢になってある日突然発症するわけではない。原因となる脳のゴミが溜まり始めるのは、発病する20~25年前なのだ。


「自覚症状がないだけで、脳には40代から少しずつ異変が起きています。この頃から、予防効果のある食品を摂り、慢性的な睡眠不足を避けることが重要。そして日頃から駅やオフィスで階段を使って有酸素運動を取り入れたり、脳にゴミが溜まりにくい生活習慣を身に付けていれば、認知症から逃れられる可能性が高まります。脳細胞にはアルツハイマー特有の変化が起きていても、症状として出てくる前の段階で食い止め、未病のまま一生過ごせる可能性がある。私たちはそこを目指したいと考えています。ゴルフや社交ダンスは認知症予防には最適なスポーツなので、運動不足が気になる人は趣味にすることをオススメします」


 日頃の習慣こそがものを言う認知症予防。新薬の開発は停滞していても、食品をはじめそれ以外の有効策が日々明らかにされているのだ。


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PHOTO:浜村菜月


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