令和の“知の巨人”出口治朗氏が語った「新型コロナ後の世界」

『還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方』が2週間で12万部のヒット


令和の“知の巨人”出口治朗氏が語った「新型コロナ後の世界」

インタビューは「東京アラート」解除後に行われた。「新型コロナの影響は、長期的に見れば良いことしかない」と前向きに語る


 感染症の大流行は、世界で数限りなく起こってきました。ウイルスは30億年前から地球上に存在していて、たかだか20万年程度のホモ・サピエンスとは比べものにならない〝大先輩〟です。普段は森の中に住んでいて何かの機会に動物を介して人間と出会う。つまりパンデミックは自然災害なんです。超ド級の台風のようなもの。火山の大爆発や隕石の衝突と同じだと考えてもいい。ダーウィンの進化論によれば、こうした歴史的な大災害は予測不可能です。強い者や賢い者が生き残るのと違(ちゃ)うで、人間にできるのは〝運と適応〟だけや、と。それがダーウィンの教えです。一定の確率で起こりうるのは理解できるけれど、いつ起こるかは誰にもわからない。南海トラフ地震と同じような話ですね。そして、それがいったん発生すれば、その後の世界が変わるのは当たり前の話です。年の近い友人が、今回の新型コロナ禍について「自分が死んでから発生したらよかったのに」とぼやいていましたが、僕は逆ですね。


 ライフネット生命創業者にして、現・立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏(72)は、笑顔でこう語る。5月下旬に上梓された氏の新著『還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方』(講談社現代新書)は発売から2週間あまりで12万部を突破した。出口氏の目には「新型コロナ」後の世界がどう見えているのか――。


 歴史的記録としてある程度のボリュームが残っている感染症は、14世紀のペストを始めとして3回あります。他の2つは15世紀の*コロン交換、20世紀初頭のスペイン風邪です。14世紀のペストの時は世界の人口が4億人で死者が数千万、15世紀のコロン交換は人口5億でこれまた数千万。スペイン風邪の時は人口20億で約5000万の死者を出しました。


 それに比べると今回の新型コロナウイルスは、世界人口77億に対して感染者数790万、死者が43万強(6月15日現在)。だから某南米の大統領などは、コロナは風邪のようなもので大したことない病気だとか言っている。それは大きな間違いです。今回の新型コロナ感染が急速なスピードで全世界を席巻したのはグローバリゼーションのせいですが、それと同時に、犠牲者がこれだけ少ないのもグローバリゼーションのおかげです。


 例えば小池百合子知事は東京に居ながらにして、ニューヨークのクオモ知事がどう発言しているのか、かの地の感染状況がどうなっているのかが毎日わかる。全世界の感染状況が瞬時に交換されるから、各地でいろいろな手が打てるわけで、これはインターネットのおかげです。


 出口氏が学長を務めるAPUは別府という観光地にある。その立地条件から、同大学ではインバウンドの重要性を鑑みて地域開発と観光を学ぶ学部を設置することを目標のひとつに掲げる。だが新型コロナで、世界の観光業には急ブレーキがかかった。


 観光産業のブレーキは、一時的なものでしかありません。なぜなら人間は「ホモ・モビリタス(移動するヒト)」であって、20万年のうち19万年は世界を放浪していたのですから。世界を回りたい、旅したいというのは人間の本質的な本能であって、人間が最も嫌で苦痛なことは自らの意思に反して土地に縛り付けられることです。いま現在は「もう日本ではインバウンド誘致、観光立国なんかありえないよ」と思っている人もいるようですが、そんなムードはすぐに変わりますよ。


 街には人の姿が戻りつつある。そんな中、「日本人は欧米人に比べて清潔好きだからコロナ禍が大したことがなかったのだ」という見方が増えた。


 なぜ日本人は手を洗ったり、毎日入浴したりするのか? 理由はごく単純で、日本の国土には水が山ほどあるからです。


 ホモ・サピエンスはすべて単一種であるということは明白で、人類学的にすでに答えが出ています。その中で黒人、白人といった特徴がなぜあるかといえば、日差しの強い暖かい場所に住んでいたら肌が黒くなり、寒冷な場所に住んでいたら白くなったというだけのこと。ヒトは環境に適応する動物であって、別に日本人が清潔好きなわけではありません。東アジアはモンスーン地域で、雨がたくさん降って水が豊富に使えるから、たまたま手洗いや入浴の習慣がついて、だから東アジアは新型コロナの被害が相対的に少ないわけです。日本人が清潔好きだ、などという意見は、血液型を引き合いに出してA型は几帳面、とか、B型は変人だ、などと言うのと同じレベルです。


 新著で僕は「物事の見方」をどう磨くか、ということを書きました。人間の考えは「人・本・旅」の累積が形づくります。いろいろな人に会って話を聞く、いろいろな本を読む、いろいろな場所へ行って刺激を受ける。そうやってインプットした個々の知識を「タテ」と「ヨコ」で整理して全体像をつかんでいくことが大切です。タテは時間軸、歴史軸。ヨコは空間軸、世界軸です。もうひとつ重要なことは、「エピソードではなくエビデンス(証拠・データ)」で物事を見ること。エピソードだけでは自分の見たいように世界を見てしまいますが、エビデンスとなる数字やデータで世界を捉えれば、世界の全体像をより正確に認識できます。これはあらゆるサイエンスの大前提です。


 今回の新型コロナウイルス禍は、まさに全世界の規模で起き、各国・各地域でその指導者が、刻々と変わる状況の中で、様々な施策を行っています。歴史的な事象をタテでもヨコでも様々な視点から比べることができるので、実にいい勉強の機会となっています。こんな貴重な体験ができるなんて、やはり生きていてよかったと思っています。


*コロン交換/コロンブスなど西欧からの入植によってコレラ、天然痘、麻疹、インフルエンザなどが新大陸に伝播。逆に西欧には梅毒などがもたらされた


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NPOが設置したタンクの水で手を洗うケニアのスラムの子どもたち。日本とは水事情が大きく異なる


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出口氏の新著『還暦からの底力』(講談社現代新書)は、若年層のファンも多く、12万部を突破するヒットに


PHOTO:鬼怒川 毅 時事通信(2枚目写真)


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