80歳の夫が告白 「私が妻を絞め殺すまで」

船橋・老老介護殺人事件

50年連れ添った夫婦…
認知症の妻を8年にわたり介護した夫が選んだ結末は――

80歳の夫が告白 「私が妻を絞め殺すまで」

犯行現場となった寝室でインタビューに応じる小川健二郎さん。ちょうど座っている位置から、妻の首をタオルで絞めた


「殺したいとはたぶん、思ってはいなかった。抵抗されれば、力を緩めたかもしれません。ただ、これだけはハッキリ言えます。私が先に死んだら、家内は私より大変だったでしょう」


 これは、介護疲れの果てに認知症の妻を絞め殺してしまった男性、小川健二郎さん(80)の述懐である。


 事件は昨年7月31日に起きた。小川さんは千葉県船橋市内の自宅で妻・富子さん(73)の首を絞め、殺害。昨年12月、懲役3年・執行猶予5年の判決が下された。


 クリーニング店を営んでいた小川さん夫婦は、子宝には恵まれなかったが、毎年、二人で旅行に出かけるなど仲の良い結婚生活を送っていた。


「優しい性格の家内は、私に対して絶対に口答えしなかった。だから結婚して50年、喧嘩は一度もありません。加えて働き者だったので、私にはもったいないほどいい女でした」


 認知症の兆候が現れたのは、8年前。日に日に物忘れが酷(ひど)くなり、6年ほど前に「アルツハイマー型認知症」と診断された。3年前に行った台湾への社員旅行では、勝手に単独行動するなど手に負えなくなっていたという。


「私は手となり足となり、家内を支え続けました。仕事はもちろん、慣れない家事に至るまでです」


 事件の3ヵ月前からは、トイレでの排尿、排便もままならなくなっていた。オムツをはかせても辺り構わず脱ぎ散らす。介護施設への入居も考えたが、空きがなく順番待ちの状態だった。


 そして、犯行の日。計画していたわけではなかった。富子さんが、漏らした便を自分の手でかき混ぜ、2階の寝室一面に撒(ま)き散らしたことが引きガネとなった。


「『何でこんなことするんだ!』。私はこの時初めて家内を怒鳴りました。ウンチをする度、私は親が子どもにするように諭(さと)し、家内は決まって『私が邪魔なら殺しなさいよ!』と反論していた。でもこの時は、なぜか無反応でした。
 私は散らばったウンチを放ったらかして、1階の居間で寝た。でも3時間足らずで起きてしまい、やっぱり片付けようと、再び階段をのぼった。その時、私は使い慣れた薄手の汗拭きタオルを無意識に手にしていました」


 小川さんが階段をのぼると、2つ並べて敷かれた布団の片方に、富子さんは静かに横になっていた。


「一瞬、家内と目が合いました。家内の瞳は、何かを訴えかけるように瞳孔が開いていたのを覚えています。
 私は枕元に跪(ひざまず)き、家内の頭を左手で持ち上げた。それでも家内は反応がない。私は昔よりいくぶん細くなった家内の首にタオルを巻き、力を入れました。家内の身体が冷たくなったのは、それから2分後のことでした」


 あれから9ヵ月。目に涙を溜(た)めながら、小川さんはこう言葉を紡いだ。


「いまでも不思議に思うのは、私が絞めても、家内は拝むように両手を合わせ、身動き一つしなかったことです」


 悲劇の裏には、50年連れ添った二人だけに通じる心の機微があったのだろう。小川さんは静かに、「家内も望んでいたのかもしれません」と呟いた。


取材・文/高木瑞穂(ルポライター)


PHOTO:小松寛之

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