高齢者の交通事故増と100万人に処方される「疼痛薬」の相関関係

警鐘レポート 高齢者「アクセル踏み間違い」事故の真相に迫る!


高齢者の交通事故増と100万人に処方される「疼痛薬」の相関関係

今年4月、東京・池袋で起きた惨劇の現場。母子を轢き殺した飯塚幸三・旧通産省工業技術院元院長(88)は脚を痛めて通院していた


取材・文:吉澤恵理(薬剤師・医療ジャーナリスト) 


爆発的に増えたリリカ服用者


 まず、下の二つの表を見てほしい。上は『疼痛(とうつう)治療薬リリカ』の売り上げの推移を示したグラフ。下は警視庁が発表した過去10年間の自動車事故における高齢者(65歳以上)が占める割合を示したグラフだ。リリカの売り上げ増加に比例するかのように、高齢者の自動車事故件数が増えていることが読み取れる。


 全体の傾向として交通事故件数は減少しているが、例外なのが高齢運転者。警察庁によれば、昨年の免許保有者10万人あたりの死亡事故件数は、85歳以上が16件以上と突出して高かった。


 高齢者事故の原因として最も多いのがアクセル踏み間違いやハンドル操作のミスなどの「運転操作不適」である。


 警察は75歳以上を対象に免許更新時に認知機能の検査を行っているが、検査をパスしているのに死亡事故を起こした高齢者が、昨年だけで400人以上と、有効な施策を打てずにいる。


 どうしてこんなに高齢者の自動車事故が増えているのか。検査をパスし、ドライバー自身も運転に自信を持っているのに、なぜアクセル踏み間違いのような単純ミスを犯してしまうのか。


 その謎を解くヒントが二つのグラフにあると筆者は見ている。


 リリカは’10年にファイザー製薬より発売された帯状疱疹後神経痛治療剤だ。


「帯状疱疹の患者さんの多くが高齢者です。免疫力の低下などが主な原因ですが、ひどい痛みを伴うため、鎮痛剤を処方します。リリカの使用率も増えています」(麹町皮ふ科・形成外科クリニックの苅部淳院長)


 ’12年に線維筋痛症、’13年に末梢性神経障害性疼痛への保険適用が認可されたことで、リリカを処方される患者は爆発的に増加。現在では100万人以上の患者が服用している。医療法人社団『二柚会・大友外科整形外科』(埼玉県北本市)の大友通明院長に話を聞いた。


「リリカは帯状疱疹後神経痛には大変効果的です。しかし、末梢性神経障害性疼痛に適用されてから『神経痛に効果がある』と拡大解釈され、しびれや痛みに広く処方されるようになりました。私は脊椎外科専門なので混合性疼痛 (複数の原因からなる痛み)の患者さんが多いのですが、リリカが効くケースもあれば、効かない場合もある。副作用が見られたこともありました。そのため、現在ではリリカは積極的に処方していません」


「車をブツけてしまいました」


 大友院長が診察した50代の歯科医の男性は、リリカの服用による副作用を経験した一人だ。


「この男性は頸椎症性神経根症による痛みが酷く、リリカを処方しました。まずは75㎎を1日2回の服用で経過を見ましたが改善せず、150㎎を2回に増量したところ、『先生、リリカを飲むと診察にならないんです。自分で自分が何をしているかわからなくなるほどボーッとしてしまうのです』と言われて、服用を中止しました。もう一人、40代の看護師の女性は神経痛に苦しんでいて、やはりリリカを処方したのですが、服用開始から間もなく、『リリカを飲んでフラフラッとして、車庫入れで車をブツけてしまいました』と申告されたので、即座にリリカの処方を中止しました。二人とも医療従事者で、事前に私が『めまいやふらつきなどの副作用がある』と説明していたから、服用後のトラブルを報告してくれたのだと思います。逆に言えば、薬の知識のない患者さんは、同じようなトラブルがあってもリリカの副作用だとは気づかず、服用し続けてしまうでしょう。私は『リリカ服用後は絶対に車を運転してはいけない』と患者さんを指導しています」


 ヨガインストラクターとして活躍し、ボディビルダーとしても国内外の大会で多くのタイトルを獲っている三船麻里子さん(50)は坐骨神経痛でリリカを処方されたが、「服用後にフラフラする感じが怖くて、運転できないと困るのですぐに服用を止めました」と言う。


 三船さんのように日頃から身体を鍛えている中年女性でも自分がコントロールできなくなるのだから、高齢者に正確な運転を求めるほうが酷である。


 リリカは中枢神経系におけるカルシウムの流入を抑制することで、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の遊離を抑え、過剰に興奮した神経を鎮めて痛みを和(やわ)らげる。神経の働きを抑えるために、副作用として眠気やふらつきなどの症状が出てしまうのだ。


 高齢者は腎機能が低下していることが多いため、副作用が強く出やすい。とくに身体が薬になれていない投与初期にめまい、傾眠、意識消失等の副作用が報告されている。製造元のファイザーによれば、リリカには治験の時点でこれらの副作用が認められていたという。


「リリカの副作用の発現に鑑み、’10年6月の本剤の新発売時より処方医・薬剤師等の医療関係者に対し、本剤投与中の患者は自動車の運転等危険を伴う機械の操作をしないよう指導する旨の徹底を依頼するとともに、継続的に啓発を行っています」(ファイザー株式会社アップジョン事業部門広報)


事故を把握していた厚労省


 だが、実際に適切な注意喚起や指導がなされているかと言えば疑問だ。


 前出の苅部院長のほか、多くの医師が「しびれや痛みに対し、安易にリリカが処方されている」と訴えている。


「私は患者さんの痛みが強くても、すぐにはリリカを処方しません。とくに高齢者の場合は副作用の少ない薬から始め、それでも痛む場合はリリカを処方することもありますが、ごくごく低用量から始めます。むしろ、痛みやしびれにはPAPT(頭部鍼療法)を勧めています。身体のいろいろな部位のツボが頭部にあり、痛む箇所に応じて鍼を打つ。PAPTは宮崎県の山本敏勝医師が発案したYNSA治療法をもとに、埼玉県の歯科医師、藤井宰先生が確立された治療法です。YNSA治療法は、ブラジルやハンガリーでは保険適用されるなど、世界で認められた療法で、腰の痛みで歩行困難だった患者さんが、治療後は歩いて帰れるなどすぐに効果が出る。PAPTは何より副作用がない。痛みを取るのに、必ずしも高価な薬は必要ないのです」(大友院長)


 監督官庁である厚生労働省も、リリカ服用後に自動車事故が起きている事実を把握している。’10年の発売からわずか1~2年の間に何件も発生しているという。同省医薬安全対策課は本誌取材にこう答えた。


「リリカを服用した後に事故が起きたという結果論であって、実際にリリカ服用による眠気や意識消失がどれだけ起きたか、その頻度は不明です。ですから、事故との相関関係についても不明と言えます。眠気や意識消失を起こす可能性がある薬はリリカに限りません。そういった薬の副作用が運転に及ぼす影響については科学的に一定の評価(品質、有効性および安全性などの確認)をすべきであり、そのための研究班が調査中です」


 驚いたのは次の一言だ。


「各学会等から薬の運転への影響に関して、利便性の観点から評価を緩くしてほしいという申し入れが時折あります」


 厚労省は「今後、評価を緩くするか厳しくするかは現時点では未定ですが、薬の副作用と自動車の運転に一定の評価をするため検証中です」と繰り返したが、高齢者の自動車事故が増加している現実を考えれば、早急に対処すべきだろう。


 日本は4人に1人が高齢者という未曾有の高齢化社会を迎えている。高齢者を取り巻く医療で問題となっているのが「多剤投与」だ。服用後に眠気や注意力が低下する副作用のある薬は、リリカの他にもある。身体能力や認知能力に問題がなくとも、薬の服用で自動車事故を起こしてしまうリスクは高いのだ。筆者は薬剤師として、免許更新時には服用している薬のリストを医師の意見書とともに提示すべきだと考えている。


高齢者の交通事故増と100万人に処方される「疼痛薬」の相関関係

リリカ錠剤とカプセル。右肩上がりで服用者が増え、’18年の国内医薬品売上高では2位にランクインしている


高齢者の交通事故増と100万人に処方される「疼痛薬」の相関関係

上表 発売8年で1000億円に到達。※’13年はデータ欠損のため、’14年の前年比から算出
下表 「第1当事者」は事故で最も過失の重かった者を指す(警視庁ホームページより)


高齢者の交通事故増と100万人に処方される「疼痛薬」の相関関係

厚労省はリリカ服用後の事故の存在は認めたが、免許更新時の服用チェックについては難色を示した


高齢者の交通事故増と100万人に処方される「疼痛薬」の相関関係

事故現場で実況見分に立ち会う飯塚元院長。一昨年、免許更新時に受けた認知機能検査をパスしていたという


PHOTO:蓮尾真司 時事通信社(厚労省)


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