国内外で販売 30年以上のロングセラー胃薬から発がん性物質検出

『ザンタック』およびジェネリック薬『ラニチジン』に重大な問題があることが発覚。医薬品への警鐘を鳴らす


国内外で販売 30年以上のロングセラー胃薬から発がん性物質検出

発がん性物質が検出された『ザンタック』の錠剤。すでに処方されたものを含め、国内だけで数億錠が回収対象に……


 ’84年の販売開始以来、30年を超えるロングセラーとなっている『ザンタック』は、胃酸の分泌を抑えることで胃潰瘍(いかいよう)、十二指腸潰瘍、胃炎などを改善する胃薬だ。’86年から’95年にかけて世界一の売り上げを記録し、特許が切れてからは国内外のメーカーがジェネリック薬『ラニチジン』として販売。つい先日まで、多くの患者が服用していたのだが――この胃薬がいま、世界中を恐怖に陥れている。


 9月13日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は『ザンタック』および『ラニチジン』から発がん性物質の「N-ニトロソジメチルアミン(以下、NDMA)」が検出されたと発表。欧州医薬品庁(EMA)も同様の警告をしたことで、世界中のメーカーが自主回収を始めた。


 国立医薬品食品衛生研究所によると、NDMAは経口または吸入摂取による急性毒性が強く、体重5㎏のラットだと115~200㎎の摂取で半数が死に至る。高用量のNDMAの1ヵ月程度の反復投与で、ほとんどの動物で肝障害や臓器の鬱血(うっけつ)、消化管の出血などが認められ、継続摂取によって、すべての動物に発がん性が認められたという。


 医薬品の回収には健康被害の危険性の大小によってⅠ~Ⅲのクラス分類があるが、『ザンタック』および『ラニチジン』は「重篤な健康被害又は死亡の原因となる可能性がある」という最も深刻なレベル「クラスⅠ」と位置付けられている。


 胃薬で胃がんになる――胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃炎の薬だと信じて飲み続けてきた患者には恐怖しかないだろう。


 厚生労働省医薬・生活衛生局は「含有量などについては現在、調査中です。データがない現状では、まだ何も申し上げられません」としたうえで、こう回答した。


「各国が協力して、NDMAが検出された原因について原材料、製造過程などを調査しています。『ラニチジン』はその構造中にジメチルアミノメチル基を持ち、亜硝酸または亜硝酸塩の存在下でNDMAが生成される可能性があるのは事実です。製造過程を見れば専門家ならNDMAが生成されることはわかると思います」


 今回、NDMAを発見してFDAに報告したのは、専門家である米国の科学者だった。「見ればわかる」重大リスクを30年以上も放置してきたのだ。それでも、


「回収は各メーカーに任せてありますが、順調だと認識しています。現在のところ、健康被害やクレームもありません」


 と、厚労省は楽観的だが、現場には緊張が走っている。有明こどもクリニック田町芝浦院の大野文子医師が言う。


「『ザンタック』および『ラニチジン』は代用薬が多く、使用頻度の高い薬剤ではない。長期で服用する例も少ないと思われますので、因果関係の特定は難しいでしょう。ただ、長期服用によるがん化の可能性がないとは言い切れません」


 本誌は各製薬メーカーに見解を問うたが、取材に応じたのはグラクソ・スミスクラインと東和薬品の2社のみ。両社とも「試験が進行中」だとして「仮定のご質問に対する回答は控えさせていただきます」とコメント。その他の質問にも、判で押したように同じ回答をした。


『ザンタック』および『ラニチジン』の添付文書には、注意事項として「胃がん隠蔽(いんぺい)」が明記されている。両社とも「隠蔽」とは「薬剤の投与によって胃酸の分泌が抑制され、早期胃がんによる潰瘍の症状(胃痛など)が抑えられ、がんの発見を遅らせる」ことを指す、と説明。


「胃がん隠蔽」で発見が遅れた胃がんの中にはNDMAによって誘発されたものもあるのではないか。本誌がそう質すと2社とも、次のように回答した。


「安全性監視活動は定期的に行っていますが、これまでに発がん性を示唆する事象は認められていません」


 厚労省は、がん患者を対象に『ザンタック』および『ラニチジン』の服用歴のある患者と、服用歴のない患者を比較すれば「リスク評価ができる」としつつ、「現時点でそのような計画はない」と答えた。続々と被害者が判明した薬害エイズのときも、メーカーと厚労省の反応はきわめて鈍かった。今回の薬害を「死人に口なし」ですませてはいけない。


国内外で販売 30年以上のロングセラー胃薬から発がん性物質検出

各メーカーはHPで回収を告知。代替薬の薬剤費や入手にかかった交通費(一律3000円)もメーカーが負担


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「がん化を警告された胃薬」リスト


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がんは日本人の死因の1位。胃がんは男性に多いのが特徴で毎年の死者数は約3万人。女性は同1万8000人だ


取材・文:吉澤恵理(薬剤師・医療ジャーナリスト)


PHOTO:Getty Images(1枚目、4枚目写真)


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