独自の「スクラム」理論でジャパンが世界を押し切る! 2019年にはラグビーW杯が日本で開催


独自の「スクラム」理論でジャパンが世界を押し切る! 2019年にはラグビーW杯が日本で開催

ジョージア代表(手前)の重量フォワードに挑む日本代表のスクラム。手を上げて鼓舞するのはスクラムハーフの流


 サッカーワールドカップロシア大会が終わると、ラグビーワールドカップ日本大会がある。


 2019年9月20日の開幕戦に登場する日本代表は、欧州6か国対抗2連覇中のアイルランド代表、2015年にあったイングランド大会で敗れたスコットランド代表と激突する。サッカーの日本代表と同じく、まとまり、スキルなどを活かして戦いたい。


 世界の強豪国と戦う日本代表にとって、もっとも重要なポイントのひとつが、スクラムだ。ワールドカップでの史上初のベスト8入りに向け、長谷川慎スクラムコーチは、独自のシステムを唱えている。


「クラウチ! バインド! セット!」


 レフリーの合図とともに、8対8で向かい合った屈強な戦士が勢いよく組み合う。片方のチームの選手がその真下へボールを転がし、攻撃を始める…。どちらかが軽い反則を犯した際におこるスクラムには、ラグビーの持つ格闘技性が如実に表れる。


 ただ迫力があるだけでなく、重要でもある。というのもラグビーでは、ボールの位置より前でプレーできない。そのため球の出どころとなるスクラムの優劣が、その後ろに立つ選手の動きを大きく変えてしまう。サッカーの動きに置き換えたら、ゴールキーパーやディフェンスラインのビルドアップに近い。


 日本代表でこの重要なパートのコーチを託されたのが、元日本代表プロップの長谷川。「中身が翻訳されて相手に渡ったら…」と詳しい説明は避けたが、コンセプトは「コア(体幹)の短い日本人に合う組み方」としている。とにかく低い位置で、力を一点に集中させる、と言えばわかりやすいだろうか。


 最前列の両プロップにフッカー、その真後ろに入るロック、側面を支えるフランカー、最後列のナンバーエイトが、所定の動作で互いの腕を回すなどして密着。背中の角度は地面と平行に、膝は芝につかないぎりぎりの位置で保つ。


 大きな相手と組み合っても、大扉の下に差し込まれた天然ゴムのドアストッパーのように動かない。我慢して、我慢して、向こうが焦れた隙に一丸となって押し返す。長谷川は言う。


「1対1では海外の選手の方が強いかもしれない。ただ、日本の選手は『(システムに)はまる技術』がすごい。8人のなかで自分がどう組むのかを理解しながらやるんです」


 引退後にスクラムコーチを始めた長谷川は、フランス留学を経て現在のスタイルを構築してきた。特に2011年度から6シーズン指導したヤマハでは、最前列の主要スターターに代表未経験者(当時)を並べながらも2014年度の日本選手権を制覇。強化に成功した。


 2016年秋からはジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いる日本代表に入閣し、2017年からはサンウルブズでも指導する。サンウルブズとは、国際リーグのスーパーラグビーに参戦する日本チームだ。日本代表候補に外国人選手を交えたラインアップで、強豪国のプロクラブとほぼ週に1度のペースで試合をする。


 他のメニューとの兼ね合いから、サンウルブズでの本格的なスクラムセッションは1週間あたりで1~2回程度、合計3~4時間ほどしか与えられない。


 上手い時間の使い方も求められるなか、長谷川コーチはその時々の対戦相手の特徴を伝えつつベースの形を反復練習する。「仏作って魂入れず」の状態を避けるべく、少人数がスクラムの姿勢を取り合って前後に押し合う「スクラムの筋トレ」で体幹を鍛える。スーパーラグビーの2017年シーズンでは、自軍ボールスクラムキープ率を全18チーム中6位の93パーセントとした。


 2018年はメンバーを固定できないチーム事情もあり、15チーム中12位の87パーセントとやや数字を落としている(第18節終了時点)。だが、6月には、日本代表としての国内テストマッチ3戦で大きな成果を残した。


 まず6月9、16日は、大分、神戸でイタリア代表に挑んだ。欧州6か国対抗でアイルランドやスコッドランドとしのぎを削る相手だ。


 日本代表のおもな合言葉はふたつ。組む瞬間のつかみ合いで先手を取る「ガンファイト」と、組み合う時に塊を低く沈める「シンク」だ。他にもいくつかのチェック項目を持つ長谷川式スクラムの乗組員は、イタリア代表が上から下へ押しつぶそうとするのを粘り腰で耐える。


 スポーツ専門チャンネル『J SPORTS』の記録によれば、計10本あった自軍ボールスクラムすべてを成功させている。戦績を1勝1敗とするなか、イタリア代表のフッカーのレオナルド・ギラルディーニ主将は長谷川式スクラムを「正確だという印象があります」と称賛する。動きの一貫性が評価されたのだ。


 続く23日、日本代表は愛知でジョージア代表と激突する。レスリングをはじめとした格闘技が盛んな東欧の雄は、パワフルなスクラムを組むことで知られている。実は長谷川が日本代表コーチ就任間もなかった2016年11月にもジョージアと対戦しているが、その時は組むたびにスクラップ状態にされていた。長谷川が「スクラムの筋トレ」で個々のパワーを高めているのは、ジョージア代表の強引さに屈した苦い経験があったからだ。


 努力は、実った。特に光ったのが、勝負どころでの相手ボールスクラムだ。


 後半7分、敵陣ゴール前左。ジョージア代表がスクラムの下に球を転がすと、日本代表はぐい、ぐいと押す。組み合った瞬間の膝の角度は日本代表の方が深く、一歩、一歩の押しに力を込めることができた。


 ロックのアニセ・サムエラ、フランカーの西川征克が、右プロップの具智元をさらに前へとせり上げる。元韓国代表左プロップの東春氏を父に持つ具は、それまでのバトルでも「レフリングへの対応で難しいところはありましたが、組めば行ける」と好感触を掴んでいた。


果たして、プレッシャーのかかったジョージア代表は直後のパス回しでミスを犯す。ここから日本代表は一気に攻め立て、2分後にはトライを奪った。


 ノーサイド。


 『J SPORTS』によれば自軍ボールスクラム9本すべてを成功させ、28―0で完封勝ち。試合後の取材エリアで、具は殊勲の1本に喜んだ。


「後ろからの重さも来ていて、8人でまとまったいいスクラムが組めていたと思います」


 自分が押せたことより、8人でスタイルを貫けたのが嬉しかった。


 長谷川式スクラムには、勤勉さ、細やかさというこの国のスポーツファンの好きな要素が詰まっている。脚光こそ浴びにくいが、見れば見るほどその造形美に魅了されるだろう。


 ひとまずの到達点は、2019年の本番でアイルランド代表やスコットランド代表での好プッシュだろう。その瞬間に立ち会うまで、低さ、一体感、組み合った後の足腰の動きに注目されてはいかがだろうか。


(スポーツライター・向風見也)


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